スピン液体

東北大学は4月25日、化学反応によって炭化水素分子に電子を導入することで、特異な磁気状態である「スピン液体」を作り出すことに成功したと発表した。

同成果は、東北大学材料科学高等研究所 コスマス・プラシデス教授、高林康裕助教、英国リバプール大学化学科 マシュー・ロゼインスキー教授らの研究グループによるもので、4月24日付の英国科学誌「Nature Chemistry」に連続する2つの論文として掲載された。

スピン液体は、1973年に初めてその存在が理論的に予測されたもの。同状態においては、温度の下限である絶対零度(-273℃)でも電子スピンが激しく動き続け、静止しない。しかし、理論的な予測に対して実験的にこのような特異な状態を実現することはきわめて難しく、候補となる物質は数例のみであった。また、炭化水素を原料とした電子材料の開発が盛んに行われているが、純度が低く、組成が不明であることが、研究の進展の妨げとなっており、材料の結晶化が大きな課題となっていた。

同研究グループは今回、温和な条件で進行する化学反応により炭化水素分子に電子を導入し、高純度の結晶を得る手法を開発。C14H10の組成を持つフェナンスレン、C22H14の組成をもつピセンとペンタセンを研究対象とした。(研究で対象とした3種類の炭化水素分子)

これらの新しい合成法を開発したことで物質の組成が明らかになり、スピン液体の候補となる現象の発見につながったという。

スピン液体となる炭化水素結晶の構造の模式図。 (左)三角形の頂点を共有した鎖状に配列した分子イオン。 (右)それと共存するらせん磁気チューブ。(中央)鎖とチューブの2つが絡み合うことで生じる、複雑な充填構造の投影図。各分子イオンは、灰色の矢印で示したスピンをひとつ持っている。このスピンは、絶対零度においてもゆらぎ続ける。図は、無数にあるからみあったスピン配向のひとつを示す (出所:東北大学Webサイト)

東北大学は4月25日、化学反応によって炭化水素分子に電子を導入することで、特異な磁気状態である「スピン液体」を作り出すことに成功したと発表した。

同成果は、東北大学材料科学高等研究所 コスマス・プラシデス教授、高林康裕助教、英国リバプール大学化学科 マシュー・ロゼインスキー教授らの研究グループによるもので、4月24日付の英国科学誌「Nature Chemistry」に連続する2つの論文として掲載された。

スピン液体は、1973年に初めてその存在が理論的に予測されたもの。同状態においては、温度の下限である絶対零度(-273℃)でも電子スピンが激しく動き続け、静止しない。しかし、理論的な予測に対して実験的にこのような特異な状態を実現することはきわめて難しく、候補となる物質は数例のみであった。また、炭化水素を原料とした電子材料の開発が盛んに行われているが、純度が低く、組成が不明であることが、研究の進展の妨げとなっており、材料の結晶化が大きな課題となっていた。

同研究グループは今回、温和な条件で進行する化学反応により炭化水素分子に電子を導入し、高純度の結晶を得る手法を開発。C14H10の組成を持つフェナンスレン、C22H14の組成をもつピセンとペンタセンを研究対象とした。


研究で対象とした3種類の炭化水素分子 (出所:東北大学Webサイト)
これらの新しい合成法を開発したことで物質の組成が明らかになり、スピン液体の候補となる現象の発見につながったという。


スピン液体となる炭化水素結晶の構造の模式図。 (左)三角形の頂点を共有した鎖状に配列した分子イオン。 (右)それと共存するらせん磁気チューブ。(中央)鎖とチューブの2つが絡み合うことで生じる、複雑な充填構造の投影図。各分子イオンは、灰色の矢印で示したスピンをひとつ持っている。このスピンは、絶対零度においてもゆらぎ続ける。図は、無数にあるからみあったスピン配向のひとつを示す (出所:東北大学Webサイト)
同研究グループは今回の成果について、炭化水素というごくありふれた物質によるスピン液体状態の発現であり、安価で身の回りにありふれた物質が高性能な電子材料、磁気材料に使える可能性が示されたことになると説明している。

※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

東京大学(東大)は3月3日、正四面体が頂点共有3次元的ネットワークを形成した格子「パイロクロア格子」を持つ量子スピンアイス磁性体「Pr2Zr2O7」に対する中性子散乱実験およびモデル解析を行った結果、従来の定説に反して構造の乱れが量子揺らぎを増強することで量子スピン液体状態を安定化する場合があることを見出したと発表した。

同成果は、日本学術振興会特別研究員の木村健太氏(研究当時。現・大阪大学大学院基礎工学研究科 助教)、東京大学物性研究所の中辻知 教授、スタンフォード大学のJ.-J. Wen 博士研究員、ジョンズ・ホプキンス大学のS. M. Koohpayeh 研究員、同 K. A. Ross 博士研究員、同 B. A. Trump 博士、同 T. M. McQueen 教授、米国国立標準技術研究所のY. Qiu 機器担当科学者、同 D. M. Pajerowski 機器担当科学者、J. R. D. Copley 機器担当科学者、ジョンズ・ホプキンス大学のC. L. Broholm 教授らによるもの。詳細は米国物理学会の速報誌「Physical Review Letters」(オンライン版)に掲載された。

通常の磁性体は、絶対零度まで冷やすと、スピンの向きが決まった固体状態となるが、近年、スピンを特殊な配置に並べることで、低温でもスピンの向きが決まらず、液体の状態が保持される状態が現れることが理論的に予言され、「量子スピン液体」として注目を集めている。その有力な探索の舞台とされているのが、巨視的縮退を残したままスピンが凍結するという性質を持つ「スピンアイス」で、何らかの方法で量子揺らぎを増強し、アイス状態を融解することで、量子スピン液体が実現されるという理論的提案がなされたことから、この検証に向けた研究が世界中で進められており、これまでにスピンアイスをベースとした量子スピン液体の候補物質が複数見出されてきたものの、どのような起源で量子スピン液体的な振る舞いが生じているのかは分かっていなかったという。

これまで研究グループは、スピンアイス関連物質であるPr2Zr2O7が強い量子揺らぎにより最低温においてもスピンが完全には凍結せず量子スピン液体的に振る舞うことなどを見出してきており、今回、その強い量子揺らぎの起源の調査を行ったという。

その結果、構造の乱れが量子揺らぎを増強することで、量子スピン液体状態を安定化する場合があることを発見。研究グループでは、従来の研究では、構造の乱れはスピンのガラス状態への凍結を引き起こし、量子スピン液体の形成を阻害するものと考えられてきたが、この定説に一石を投じる成果と説明するほか、今回の成果が量子スピン液体を示す磁性材料の開発に新たな指針を与えるものになるとの期待を示しており、今後、PrとZrの組成比の精密制御により、乱れのより少ない試料を合成し、詳細な物性測定を行うことで、量子スピン液体のさらなるにつながることが期待されるとコメント。将来的には、量子スピン液体のエンタングルメントを利用したスピントロニクス量子コンピュータの次世代デバイスへの応用に繋がることも期待できるとしている。

パイロクロア格子。理想的なパイロクロア磁性体では、磁性イオンが各正四面体の頂点に位置するが、今回の研究で用いられたPr2Zr2O7の試料においてはPr3+イオンが理想的な位置からずれているため、これが量子スピン液体を安定化させていると考えられるという (出所:東京大学Webサイト)

氷は常圧においてパイロクロア構造をとる(a)。H+イオンが正四面体の頂点から少し変位しているが、その変位の向きは、2-in 2-outの構造で、「アイスルール」と呼ばれ、共有する2つの正四面体の中心に位置するO2-イオンのうち、どちらの向きに水素結合を形成するかによって決まってくるという。同様な状況は、H+イオンの変位を上下方向にしか向かないイジングスピンに置き換えたスピンアイスと呼ばれる磁性体にも現れる(b) (出所:東京大学Webサイト

東京大学物質・材料研究機構(NIMS)は、極低温でスピンの向きがふらつく状態(量子スピン液体状態)を示す純有機物質を発見したと発表した。

同成果は、東大 物性研究所の磯野貴之元特任研究員(現NIMS 研究員)、上田顕助教、森初果教授、NIMSの宇治進也超伝導物性ユニット長らによるもの。詳細は、「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載された。

水は温度を下げると、運動エネルギーを失い、水分子が動けなくなった固体(氷)となる。同様に、磁性体中の電子のスピンも、通常は低温では整列しスピンの固体となる。ところが、最近の理論研究では、三角形の格子状に並んだ電子のスピンは、極低温までスピンの向きがふらふらしている液体状態(量子スピン液体状態)を保つことが示唆されている。しかし、実際にそのような量子スピン液体状態が本当に存在するのか、そのスピン状態はどういうものなのか、本質は理解されていないため、量子スピン液体物質の探索が長年行われてきた。

今回、研究グループは、純有機物質であるκ-H3(Cat-EDT-TTF)2(Cat-EDT-TTF:カテコール縮環エチレンジチオテトラチアフルバレン)の電子スピンが量子スピン液体状態であることを突き止めた。量子スピン液体状態にある新たな物質の発見は、量子スピン液体状態の理解を理論的に深める上で重要である。また、量子スピン液体の詳細な理解は、高温超伝導体の超伝導メカニズム研究や、新規のデータストレージや通信技術の開発において、新たな指針を提供することが期待されるとコメントしている。

理化学研究所(理研)は3月19日、グラフェンなどで見られる質量ゼロの2次元ディラック電子系において、電子間の相互作用が引き起こす金属から絶縁体への相転移(金属-絶縁体転移)が普遍的な性質を持つことを、スーパーコンピュータ「京」を用いたシミュレーションにより明らかにしたと発表した。

同成果は、理研 計算科学研究機構 量子系物質科学研究チーム 柚木清司チームリーダー、大塚雄一研究員、サンドロ・ソレラ客員主管研究員らの研究グループによるもので、3月18日付けの米科学誌「Physical Review X」オンライン版に掲載された。

グラフェン中に存在する電子は、質量がゼロのディラック粒子として振舞うことが知られているが、ディラック電子にも普通の電子と同じ電荷やスピンの自由度がある。ディラック電子の集団は、電子が自由に動き回る場合は「半金属」となるが、電荷間に働くクーロン力が強くなると、質量がゼロであったディラック電子が質量を持つようになり「絶縁体」に相が転移する。またそれに伴い、隣り合う電子の間のスピンが逆向きに整列した「反強磁性体」状態になることが知られていたが、これまで電子間相互作用で引き起こされる「金属-絶縁体」の相転移の普遍的な性質についてはわかっていなかった。

同研究グループは今回、金属-絶縁体転移が起きる点(臨界点)で物理量が示す特徴的な指数である「臨界指数」を正確に評価するために、質量ゼロのディラック電子系を構成する「ハニカム格子」と「πフラックスを持つ正方格子」の2つの異なる模型に対し、独自に開発した量子モンテカルロ法によるシミュレーションを「京」で実行した。模型の各クラスタの格子点の数をNとして、N=2592の系までシミュレーションを実行したというが、これは先行研究の計算量の約100倍に相当するという。

金属-絶縁体転移に伴う反強磁性相の強さを表す秩序変数に対して有限サイズスクリーン解析という解析を行った結果、臨界指数は統計誤差の範囲内で一致することがわかった。次に、金属-絶縁体転移の指標となる準量子重み(相互作用による電子の絶縁体化の度合いを表す量)に対する計算を行った結果、この物理量から得られる別の臨界指数も2つの模型で一致し、「普遍性クラス」が存在することが示された。さらに、普通の電子系では絶縁体化していくにつれて、波としての群速度がゼロとなっていくのに対し、ディラック電子系では有限のままに保たれるという違いがあることも明らかになった。

同研究グループは今回の成果について、銅酸化物高温超伝導体やスピン液体などを示す分子性導体といった、ディラック電子を構成しない電子間相互作用が強い系でみられる金属-絶縁体転移を解明する第一歩となると期待できるとしている。

ハニカム格子(a)およびπフラックスを持つ正方格子(b)の格子構造

理化学研究所(理研)と東京工業大学(東工大)は、トポロジカル絶縁体表面に形成される質量のない電子(ディラック電子)の空間分布の観測に成功し、特異な空間分布であることを解明したと発表した。

同成果は、理研創発物性科学研究センター 創発物性計測研究チームの付英双 国際特別研究員(中国華中科技大学教授)、花栗哲郎チームリーダー、量子凝縮相研究チームの川村稔専任研究員、東工大 応用セラミックス研究所 笹川研究室の笹川崇男准教授らによるもの。詳細は英国の科学雑誌「Nature Physics」オンライン版に掲載された。

トポロジカル絶縁体は、物質内部は絶縁体でありながら、物質表面は金属であり、かつ物質表面の金属状態を担う電子は質量を持たないという特異な性質を有しており、この質量のない電子は「ディラック電子」と呼ばれている。

このディラック電子の波動関数は電子の持つ自由度に関連した2つの成分を持っており、トポロジカル絶縁体表面のディラック電子の場合、この2つの成分は電子の持つスピンに関係していることが知られている。そのため、トポロジカル絶縁体スピントロニクス材料として用いる試みが行われてきたが、波動関数の情報を含んでいる電子の空間分布を実験的に直接観測することは困難であり、さまざまな環境においてスピンがどのような振る舞いを示すのかはよくわかっていなかった。

今回、研究グループでは、走査型トンネル顕微鏡法/分光法(STM/STS)を活用することで、トポロジカル絶縁体表面のディラック電子の空間分布を直接観測することに成功したという。

この結果、ディラック電子は、ポテンシャルの「等高線」に沿ったリング状分布することが判明したほか、同分布は、ポテンシャルと磁場の効果を取り入れたディラック方程式から求めた理論的な電子分布とよく一致していることが分かったとする。

欠陥が作るポテンシャルと磁場によってトラップされたディラック電子

また、ディラック方程式の理論解析を行ったところ、ディラック電子の波動関数を構成する2つの成分のそれぞれは、通常の電子と同様の多数のピークを持つが、成分ごとに異なる空間分布を示すため、実験で観測される2つの成分の和では互いが相殺されてしまい、結果として比較的相殺が起こりにくい帯の内端と外端に2つのピークが残ることも判明した。

さらに、解析に用いた理論モデルを用いて、スピン磁化の空間分布を計算したところ、ポテンシャルの形を反映した特異なスピン磁化分布が現れることが示されたとのことで、この結果について研究グループでは、ポテンシャルという一見磁気的性質とは無関係なパラメータの制御により、さまざまなスピン磁化の空間分布を作り出せる可能性が示されたとコメント。今後は、今回のような手法を活用することで、未知の側面を観察することが可能となり、将来のエレクトロニクス応用に向けた量子効果の発見へつながることが期待されると説明している。

トポロジカル絶縁体表面で期待されるスピン磁化分布

東北大学(東北大)は12月24日、鉄とタングステンを接合することによってその界面にディラック電子を発生させ、同電子に巨大な質量を与えることに成功したと発表した。

同成果は、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 相馬清吾 准教授、高橋隆 教授、同理学研究科 佐藤宇史 准教授らの研究グループによるもので、12月23日付けの米科学誌「Physical Review Letters」オンライン速報版に掲載された。

次世代電子デバイス材料として注目を集めているグラフェントポロジカル絶縁体は、相対論的なディラック電子を持つ物質として知られている。ディラック電子とは、物質中においてあたかも質量がゼロの粒子のように振る舞う特殊な電子で、真空中で光速に近い速度で運動するニュートリノなどの粒子と同じような性質を示すことから、物質中の相対論的電子と呼ばれている。

今回、同研究グループは、分子エピタキシー法によって、タングステンの表面に数原子層の鉄超薄膜を成長し、外部光電効果を利用した角度分解光電子分光という手法を用いて、鉄とタングステンの界面から電子を直接引き出し、そのエネルギー状態を高精度で調べた。

この結果、鉄超薄膜を接合する前は質量がゼロだった結晶表面のディラック電子が、鉄超薄膜を接合することによって質量を獲得していることを明らかにした。また、その質量の大きさは、トポロジカル絶縁体に比べて遥かに(数倍程度)大きいことがわかった。さらに、鉄超薄膜の磁化の向きを制御することで、質量獲得の有無の切り替えができることを発見した。

角度分解光電子分光によって得られた鉄原子層超薄膜とタングステンの界面におけるディラック電子の質量獲得の模式図。ディラック電子は、物質中でディラック錐と呼ばれる電子の状態を形成している。今回、鉄のスピンの方向(面内/面直)によってディラック電子の質量を切り替えられることが明らかになった

同成果を新物質の設計や電子スピン状態の制御に利用することで、新しいディラック電子系物質の開発が進み、スピントロニクスバイスや超高速処理を行う量子コンピュータの実現の可能性が進むことが期待されると同研究グループは説明している。

東北大学(東北大)は2月1日、質量ゼロの「ディラック電子」の流れを制御できる新しい磁石を発見したと発表した。

同成果は、大阪大学大学院理学研究科 酒井英明 准教授(研究開始時:東京大学大学院 工学系研究科 助教)、東京大学大学院 工学系研究科 石渡晋太郎 准教授、修士課程2年 増田英俊 氏、東京大学 物性研究所 徳永将史 准教授、東京大学大学院 工学系研究科 山崎裕一 特任講師、東北大学 金属材料研究所 塚﨑敦教授らの研究グループによるもので、1月29日付けの米科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

通常の金属や半導体中の電子の運動は、質量を持った粒子として振る舞うことが知られているが、近年、黒鉛の単原子層であるグラフェンでは、質量のない粒子として電子が伝導することが明らかとなっている。このような固体中のディラック電子は、極めて高い移動度を有するため、エレクトロニクス分野への応用などが期待されており、実際の応用例として、ハードディスクのような磁気的情報メディアにおけるデータの超高速書き込み/読み込みを、ディラック電子の外部磁場制御により実現するこ となどが考えられる。そのためには、ディラック電子による高い伝導性と磁場に対する高い応答性を併せもった新しい磁性体を開拓する必要があるが、このような物質は極めてまれであるため、固体中の磁性とディラック電子の伝導性との相関は未解明な点が多く、現在スピントロニクスの分野における重要な問題のひとつとなっている。

今回、同研究グループは、比較的融点の低い融剤(フラックス)に、合成したい化合物の原料を溶かしこみ、過飽和の条件で析出させて単結晶を得る「フラックス合成法」を高真空中で行うことにより、ディラック電子と磁石の性質が共存すると予想される高品質単結晶の層状物質(EuMnBi2)の合成に成功。同物質は、ディラック電子状態を担うビスマス層と、磁石の性質を担うユーロピウムなどからなるブロック層が積層したハイブリッド構造を特徴としている。

また今回の研究では、この物質においてディラック電子と磁気状態が互いに強く結びついていることを実証するために、東京大学 物性研究所附属 国際超強磁場科学研究施設、および東北大 金属材料研究所 強磁場超伝導材料研究センターにおいて、約30~60テスラの強磁場中で電気抵抗測定を行った。さらに磁気状態の解明に向け、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 フォトンファクトリーにおいて、放射光エックス線の磁気散乱実験を行った。この結果、ユーロピウムの磁気秩序に伴い、電気抵抗率が大きく変化することを発見した。特に面直方向へ磁場を加え、磁気モーメントの方向を90度回転させると、面直方向への伝導が1桁近く抑制されたという。さらにこの効果を利用して、ディラック電子を電気伝導層であるビスマス層(二次元層)内に強く閉じ込めることにより、ディラック電子層が積層したバルクの磁性体において初めて、ホール抵抗値が離散的となる半整数量子ホール効果を実現した。

同研究グループは今回の研究成果について、今までになかった強相関ディラック電子物質という新しいスピントロニクス材料を切り拓く結果であり、今後は超高速かつ省エネ動作が可能なハードディスクのヘッドや磁気抵抗メモリMRAMなどへの応用が期待されると説明している。

ディラック電子と磁性が共存する物質EuMnBi2の結晶構造と磁気構造

 

カルコゲン化ユウロピウムは磁性半導体として重要。カルコゲンとは硫黄、セレンなどの第16族元素のことである(酸素は除かれる場合がある)。

酸化イットリウム(III) Y2O3などに酸化ユウロピウム(III) Eu2O3 をドープした化合物はブラウン管カラーテレビの発光面、3波長形蛍光灯の蛍光体などに使われている。青色発光ダイオードが製品化されてからは、Euドープのαサイアロンが青色の補色である黄色―琥珀蛍光体として用いられ、白色ダイオードを実現するのに用いられている。

青山学院大学石井あゆみ助教らは、ガラスナノ粒子の界面に+2価を持つフェナントロリンとの金属錯体を低温で焼成することに成功し、青色や多色の発光デバイスとしての応用が期待される[2]。

ユウロピウム安定同位体は、153Euのみである。しかし、151Euは長い半減期を持った核種であるため、現在の地球において、151Euも天然に比較的まとまった量が存在している。

テレビのブラウン管、水銀灯の蛍光体の材料に利用される。鉄-コバルト-テルビウム合金は光磁気ディスクの磁性膜の材料として、鉄-ジスプロシウム-テルビウム合金はプリンターの印字ヘッドに利用される。磁性ガラスには磁性を担う酸化テルビウムが添加される。

テルビウム (英: terbium) は原子番号65の元素。元素記号は Tb。スウェーデンの小さな町イッテルビー (Ytterby) にちなんで名づけられた。イッテルビーからは、テルビウムの他、イットリウムイッテルビウムエルビウムと合計四つの新元素が発見されている。これらの元素はいずれも、イッテルビー から名称の一部をとって命名された。希土類元素の一つ(ランタノイドにも属す)。