ラッパムシ

現代の再生医療は、損傷を受けた細胞のかわりに、皮膚細胞や筋肉細胞への分化能をもつ幹細胞を移植するという発想に基づいている。「それもすばらしいのですが、挑発的に聞こえるのを承知で言わせてもらうと、わたしにはラジオを修理するためにトランジスターをいくつも放り込んでいるように思えます」とマーシャルは言う。「もっとも望ましいのは、損傷を受けた細胞自身が、本来の位置で再生することです。そうすれば、以前の組織をそっくりそのままつくり直せますから」。そう、まさにラッパムシのように。

軽量化されたゲノム

さらにラッパムシは、そのゲノム構成もほかに類をみないものであると、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のマーシャルらの研究チームは研究論文に 書いている。マーシャルのチームは、ラッパムシの身体再生能力を解明する手がかりを得るために初のゲノム解析を行い、イントロンと呼ばれる部位に奇妙な特徴を発見した。イントロンとは、ひとつなぎのDNAの中に散在する間仕切りだ。ヒトDNA中のイントロンには、1,000塩基以上の長さのものもある。一方、ラッパムシのイントロンは、わずか15塩基。既知のあらゆる生物のなかで最短だ。

なぜこんなにも短いのか? これもまた、ラッパムシの数多くの謎のひとつだ。「ゲノムを可能なかぎり軽量化している、というのがひとつの可能性です」と、マーシャルは言う。「なぜその小さなゲノムが巨大な細胞に収まっているのかは、見当もつきません」

しかも、ラッパムシは巨大なひとつの細胞からなる体のなかに、ゲノムを数百コピーも保有している。ちなみに、ヒトの細胞にはゲノムはたった2コピーしかない。ラッパムシは、巨大な体の内部にゲノムのコピーをたくさんもつことで、ケガを負ったときに身体再生の指令を伝達しやすくしているかもしれない。ゲノムを理解することで、再生能力の解明も進むだろう。

こうして、サンフランシスコの池の悪臭漂う汚泥をかきわけて始まった探求は、いまや奇妙なゲノムの解読の段階に入った。ヒトの再生医療に革命をもたらす何かが、そこにあるかもしれない。それが見つかればラッパムシは、マイナーな悪役などではなく、真のヒーローになるだろう。

米ウースター工科大学の研究者たちが、血管の代替として植物の「導管構造」を利用できる可能性を証明した。ホウレンソウを使ったその研究結果は、再生医療における人工臓器の「血管新生」にまつわる課題を解決しうる。

科学者たちはパセリやヨモギなど、ほかの植物でも脱細胞化の技術をテストしている。彼らは、異なる臓器に最適化すべく、それぞれ違った導管構造をもつ多種の植物を利用しようとしている。

「農夫たちが何千年もの間にわたって栽培し続けてきた“植物”を生体組織技術に応用することこそが、この分野における課題解決につながるのかもしれません」と、論文著者の1人、グレン・ゴデットはコメントしている。そう、植物は非常に経済的、なのだ。

そもそも、人工臓器については、3Dプリンターの登場に大きな期待が寄せられている。しかし、こと再生医療の話になると乗り越えなければならない障害はいまだ多々ある。そのひとつが血管組織、すなわち、酸素や栄養を運搬するのに必要な「血管網」だ。そこで、米ウースター工科大学の研究者たちは、この世界にすでに存在する導管システムを「自然から借りる」ことを考えた。

LUCAは40億年前にさかのぼる単細胞有機体だ。その遺伝子の研究により、この生物が酸素がなく鉱物の豊富な火山性環境でも生き残ることができたことが明らかになった。

「Last Universal Common Ancestor」(最終普遍共通祖先)、略して「LUCA」は、その起源を約40億年前にまでさかのぼることのできる単細胞生物だ。

進化生物学者ウィリアム・マーティン率いる科学者たちは、LUCAの「遺伝的IDカード」を再構成できるようになるまで、長い間調査を行わなければならなかった。ほかの単細胞生物古細菌と細菌)のものである600万以上の遺伝子を分析し、子孫のたどった進化的道のりを検討することで、LUCAのものだったであろう355の遺伝子を特定した。

科学者たちの期待は、遺伝子の研究によって、この生物の考えうる生命サイクルを再構成することだ。そして、それはすぐに実現した。

論文に付属するコメント記事で、生物学者ジェイムズ・マキナーニーは述べている。「この研究は、40億年前のわたしたちの惑星の生命について、かけがえのない視座を与えてくれます。LUCAの代謝を研究することで、わたしたちは古細菌と細菌が分化する前の、進化論的に最良の局面を目にできるのです」

一方、『ニューヨーク・タイムズ』が指摘しているように、まったく異なる考えの人もいる。マサチューセッツ総合病院のジャック・ショスタクは次のようにコメントしている。

「LUCAと生命の起源は、莫大な距離で隔てられていて、進化的なイノヴェイションだらけです」。ケンブリッジ大学の化学者ジョン・サザーランドはさらに辛辣だ。「LUCAの遺伝子記述は非常に興味深いです。しかし、地球上の生命の実際の起源とは何の関係もありません」

「ハチノスツヅリガの幼虫は蜜ろうを食べるので、それを分解するための分子を進化させたのかもしれません。そして、その分子がプラスチックにも同じように働くのではないかと思います」と、ベルトチーニ氏は語る。

ポリエチレンは高品質な樹脂で、より価値の高いさまざまな製品に“アップサイクル”できます。1トンにつき500ドルで売れることもあります。今回の研究は興味深い話で、学術的な研究としては大変すばらしいと思いますが、私としてはポリエチレンの処分法として望ましい解決策とは思いません。これではお金を捨てるようなものですが、イモムシ食えばいいじゃん。

カーボンナノチューブで作る人工筋肉は、重量1キロ当 たり4000~5000ドルの費用がかかる。これに対し、今回の研究チームが同じ量のポリエチレンの釣り糸やナイロ ン繊維を購入する費用は、わずか5ドルで済んだ。

「これは、あらゆる生命体が保持している生得的な免疫伝達物質だ。このカエルが生成するペプチドがH1型インフルエンザウイルスに効果があることを、われわれは偶然発見した」

 研究チームはカエルに弱い電気ショックを与えてH1型インフルエンザウイルスを撃退するとみられるペプチドを含む分泌物を採取。この抗ウイルス性ペプチドを「ウルミン(urumin)」と命名した。論文によると名前の由来は、数百年前にインド南部で使われていたむちのような形の剣にちなんだものだという。

 論文は、ウルミンは哺乳類に対する毒性はなく「インフルエンザウイルスを破壊するのみとみられる。これは電子顕微鏡で確認された」としている。

 研究チームが致死量のH1型インフルエンザウイルスに感染させた実験用マウスの鼻にウルミンを注入したところ、マウスは生き延びた。H1型は2009年の豚インフルエンザ流行を引き起こしたウイルスだ。

 ウルミンが人間のインフルエンザの予防的治療に使えるかどうかや、カエルが生成する他のペプチドがデング熱やジカ熱の病原ウイルスに対して有効かどうかなどを確認するためには、さらに研究を重ねる必要がある。(c)AFP