ポアズ

ポアズ(poise, 記号:P)は、CGS単位系における粘度の単位である。1913年に提唱されたもので、その名前はフランスの物理学者であるジャン・ポアズイユにちなむ。

1ポアズは、流体内に1センチメートル(cm)につき1センチメートル毎秒(cm/s)の速度勾配があるとき、その速度勾配の方向に垂直な面において速度の方向に1平方センチメートル(cm2)につき1ダイン(dyn)の力の大きさの応力が生ずる粘度と定義されている。すなわち、1 P = 1 (dyn/cm2)/((cm/s)/cm) = 1 dyn·s/cm2となる。

実際には、100分の1のセンチポアズ(cP)や1000分の1のミリポアズ(mP)がよく使われていた。

SIにおける粘度の単位はパスカル秒(Pa·s)であり、ポアズとの換算は 1 Pa·s = 1 kg/m·s = 10 P となる。ポアズは非SI単位であり、SIでは非推奨の単位としている。日本の計量法においては、ポアズは国内外で広く用いられており、使用を禁止することで混乱を招くおそれがあるため、「法定計量単位」として使用を認めている。

摂氏25度における水の粘度は0.0089ポアズ(8.9ミリポアズ)である。

ジャン=ルイ=マリー・ポアズイユ(仏: Jean-Louis-Marie Poiseuille、1797年4月22日 - 1869年12月26日)は、フランスの医師、物理学者・生理学者である。流体力学の分野で層流流れに関するハーゲン・ポアズイユ流れを導いたことで知られる。粘度のCGS単位系の粘度の単位ポアズはポアズイユの名に因んでいる。

パリで生まれた。エコール・ポリテクニークで物理学と数学を学んだ。円筒管内部を流れる、非圧縮性の粘性流体の層流流れについて1838年に実験し、1840年にハーゲン・ポアズイユ流れを、ゴットヒルフ・ハーゲンとは独立に導いた[1]。 これは生理学の分野では毛細管中の血液の流れなどの研究に役立つものである。

ハーゲン・ポアズイユ流れ(ハーゲン・ポアズイユながれ、英語: Hagen-Poiseuille flow)とは、管径が一定の円管を流れる粘性をもつ流体(非圧縮性のニュートン流体)の定常層流解[1]、つまり円形の管の中をゆっくり流れる水などの流れ方に関する厳密解である。このような流れでは非圧縮性ニュートン流体の運動方程式であるナビエ・ストークス方程式を解析的に解くことができ、この流れは数少ない厳密解のうち最も有名でかつ重要な流れである[2]。

特にハーゲン・ポアズイユの法則(英語: Hagen-Poiseuille law)またはハーゲン・ポアズイユの式(英語: Hagen-Poiseuille equation)と言った場合には、このような流れにおける(体積)流量に関する公式のことを指す[3]。また、「ハーゲン」を省略してポアズイユ流れとも呼ばれるが、概要で説明されるようにこの呼び方は正当な評価とは言えない。

粘性流体が管径が一定の円管を層流で流れる場合、その流速分布は、厳密に

u
(
r
)
=
g
I
e
4
ν
(
a
2

r
2
)
u(r)={\frac {gI_{e}}{4\nu }}\left(a^{2}-r^{2}\right)
となる[4]。ここに、u は流下方向の流速、r は円管中心からの半径方向の距離(0 < r < a )、g は重力加速度、Ie は動水勾配またはエネルギー勾配[注 1][注 2]、νは動粘性係数、a は円管の半径である。この式は、円管内を層流で流れる粘性流体の速度分布が放物線を描くことを表す。

この流速分布は、1839年にドイツのゴットヒルフ・ハーゲン(土木技術者で、下水道などの設計をしていた)が、1840年にフランスのジャン・ポアズイユ(医師で、血流の研究をしていた)がそれぞれ別々に発見した[1]。それで、このような流れの解をハーゲン・ポアズイユ流れと呼ぶ。ヨーロッパなど、特に技術者より医師の方が社会的地位が高いと考えられていた地域などでは、技術者であるハーゲンの名前をあえて省き、単にポアズイユ流れと呼ぶこともあるが、これは正当な評価とは言えない[4]。

この方程式はナビエ・ストークス方程式(レイノルズ方程式)において、

乱れ変動がなくレイノルズ応力(英語版)がゼロである(層流条件)
流れは定常(時間的に変化しない)
断面方向に流れない(流下方向のみに流れる)
流体は連続体としてふるまう
壁面において流体の速度0(スリップしない)
という条件から導くことが出来る[4]。しかし、先に述べたハーゲンとポアズイユは、このナビエ・ストークス方程式を十分に理解してこの流速分布を誘導したのではなく、実験を行ってその観察などからこの法則を発見したと考えられている[4]。

前述した流速分布式を断面で積分することにより、以下の(体積)流量Q に関するハーゲン・ポアズイユの式が得られる。

Q
=

0
a
u
(
r
)

2
π
r
d
r
=
π
g
I
e
8
ν
a
4
Q=\int _{0}^{a}u(r)\cdot 2\pi rdr={\frac {\pi gI_{e}}{8\nu }}a^{4}
ここで、各記号の意味は前述と同じである。

これを変形すると、

ν
=
π
g
a
4
8
Q
I
e
\nu ={\frac {\pi ga^{4}}{8Q}}I_{e}
となり、半径a の円管を用意し、そこに粘性流体を層流で流したときに流れる流量Q 、及び円管内の2点間のピエゾ水頭をピエゾメータ(英語版)で計測して動水勾配Ie を測定できれば、その流体の動粘性係数νを求めることができる。

この結果を、ダルシー・ワイスバッハの式:

I
e
=
f

1
2
a

u
¯
2
g
I_{e}=f\cdot {\frac {1}{2a}}\cdot {\frac {{\bar {u}}}{2g}}
u
¯
=
Q
π
a
2
{\bar {u}}={\frac {Q}{\pi a^{2}}} :平均流速
に代入することで、摩擦損失係数f とレイノルズ数

R
e
=
u
¯

2
a
ν
Re={\frac {{\bar {u}}\cdot 2a}{\nu }}
の関係が次式で与えられる。

f
=
64
R
e
f={\frac {64}{Re}}

^ 管径が一定であるため、流下方向に速度水頭一定となり、ゆえに両者は等しくなる[1]。
^ 管長L での圧力損失Δp を用いると、
I
e
=
Δ
p
ρ
g
L
I_{e}={\frac {\Delta p}{\rho gL}}
である(ただしρは密度)。

粘度(ねんど、ドイツ語: Viskosität、フランス語: viscosité、英語: viscosity)は、物質のねばりの度合である。粘性率、粘性係数、または(動粘度と区別する際には) 絶対粘度とも呼ぶ。一般には流体が持つ性質とされるが、粘弾性などの性質を持つ固体でも用いられる。

量記号にはμまたはηが用いられる。SI単位はPa·s(パスカル秒)である。CGS単位系ではP(ポアズ)が用いられた。 動粘度(後述)の単位として、cm2/s = 10−4m2/s = 1 St(ストークス)も使われる(即ち、1 mm2/s = 1 cSt(センチストークス))。工業的にはセイボルト秒も使われる。

粘性のある物体を面積 S 、間隔をh にした2枚の平板間にはさみ、平板を相対速度 U で平行に動かすと、動いている方向と反対方向に剪断応力(摩擦応力ともいう) τが発生する。物体と板の間に発生する力をF と置くと、F は間隔 h の逆数と相対速度 U に比例し、

τ
=
F
S
=
μ
U
h
\tau ={\frac {F}{S}}=\mu {\frac {U}{h}}
と表現される。この比例係数μが粘度である。

もう少し一般化して記述する。面と垂直方向にy 軸を取り、面と平行方向の流体の速度をU と置くと、剪断応力τは単位時間当りの剪断変形率に比例する。すなわち

τ
=
μ

U

y
\tau =\mu {\frac {\partial U}{\partial y}}
と表現される。これをニュートンの流体摩擦法則という。

通常、粘度μは外力に対して一定値であり、このような性質及び物質をニュートン流体と呼ぶ。μがせん断変形率に依存する物質を非ニュートン流体と呼ぶ。

粘度は、毛管粘度計など、細い管のなかを自重で通過する速度(時間)によって比較できるので、絶対粘度を密度で割った動粘度(動粘性係数ともいう)が指標として用いられる。

ν
=
μ
ρ
\nu ={\frac {\mu }{\rho }}

一般に、液体の粘度は温度が上昇すると低下し、気体の粘度は温度が上昇すると上昇する。潤滑油では、粘度指数 (VI) で、高温・低温の粘度を規定している。固体から液体への転移は粘度の急激な低下という見方もでき、粘度で軟化温度などを定義することもある(例:ガラス)。[1]

なお、圧力依存性については、気体では小さいとされている[2]。

粘度と温度の関係を表す式がいくつか提案されている。以下、T は絶対温度を表す。[3]

レイノルズの式 1886年
レイノルズ方程式より導かれる理論式。[4]
μ
(
T
)
=
μ
0
exp

(

b
T
)
\mu (T)=\mu _{0}\exp(-bT)
μ0 :基準温度での粘度
b :物質に依存する係数
アンドレードの式 1934年
分子動力学においてアレニウスの式より導かれる、ガラス転移しない物質あるいはガラス転移点以下における最も一般的な理論式。[5]
μ
=
A
exp

(
E
R
T
)
\mu =A\exp \left({\frac {E}{RT}}\right)
A :物質に依存する係数
E :流動活性化エネルギー
R :気体定数
WLFの式 1955年
ガラス転移点を持つ物質の溶解物及び流体においての経験式。ガラス転移点+100℃の範囲に適用出来る。[6]
ウィリアムズ(Williams),ランデル(Landel),フェリー(Ferry)の三人による。
log

a
T
=

C
1
(
T

T
0
)
C
2
+
(
T

T
0
)
\log a_{{{\rm {T}}}}=-{\frac {C_{1}(T-T_{0})}{C_{2}+(T-T_{0})}}
緩和時間 τ の温度依存性を表す時間‐温度換算因子 αT
C1,C2は物質によらない定数で、それぞれ8.86,101.6。
TS :ガラス転移温度Tgと、TS-Tg=50の関係。
TS=Tgの場合、C1,C2はそれぞれ17.55,51.6。
増子 マギルの式 1988年
ガラス転移点を持つ物質の溶解物における、広範囲な温度に適用可能な経験式。[7]
log

(
η
/
η
g
)
=
A
[
exp

{
B
(
T
g

T
)
T
}

1
]
\log(\eta /\eta _{g})=A\left[\exp \left\{{\frac {B(T_{g}-T)}{T}}\right\}-1\right]
A,B :物質に依存しない定数で、それぞれ15.29±1.04, 6.47±1.13。

サザーランドの式 1893年
Sutherland (1893)が理想化された分子間ポテンシャルを使用して動力学的理論から導いたものであり、2つの形式が提案されている(パラメータの換算をすれば、これらは等価である)。
μ
=
C
1
T
3
/
2
T
+
C
2
\mu ={\frac {C_{1}T^{{3/2}}}{T+C_{2}}}
C1、 C2 :物質に依存する係数
μ
=
μ
0
(
T
T
0
)
3
2
T
0
+
S
T
+
S
\mu =\mu _{0}\left({\frac {T}{T_{0}}}\right)^{{\frac {3}{2}}}{\frac {T_{0}+S}{T+S}}
μ0 :基準温度での粘度
T0 :基準温度
S :Sutherlandの定数
ジーンズの式
μ
=
K
T
n
\mu =KT^{n}
K 、n :物質に依存する係数
ピッチドロップ実験(英語: Pitch drop experiment)は、ピッチの流れを観察するために非常に長期にわたって行われる実験である。ピッチとは非常に粘性が高くて固体に見えるような物質を指す総称で、たとえばアスファルトなどはピッチの一種である。室温では、ピッチはとてもゆっくり流れて、数年かけて一滴のしずくを形成する。

ピッチ (英: Pitch) は黒色で粘弾性のある樹脂。石油から精製されるものは歴青、植物樹脂から生成されるものはロジンと呼ばれる。

粘弾性を持つ。常温では硬く、強い衝撃を与えると砕けるが、長時間では流動性を示す。クイーンズランド大学で1927年より行われているピッチドロップ実験では、漏斗の下が切られてから最初の1滴が落ちるのに約8年が経過し、2000年に第8滴の滴下が確認された。また諸計算により1980年代には水の2300億倍の粘度があると算出された[1]。

木材を乾留させると、木炭を残してピッチとタールが得られる。木材の中でも樺の樹皮が製造に適している。しばしばピッチとタールが混同されるが、タールは液体であり、ピッチは固体に近い性質を持つ点で異なる。

粘度の例
物質 粘度 / Pa·s 備考
上部マントル[8] 1021 アセノスフェアの粘度は1018–1020 Pa·s
下部マントル[8] 1022–1023
ピッチ 2.3×108 知られているもっとも粘度の高い物質の一つ。ピッチドロップ実験を参照
ガラス 4.5×106 軟化温度の定義粘度、自重で1mm/minの速度で伸びるぐらいの粘度
ガラス 104 流動温度の定義粘度、ガラス成形作業の目安の粘度
マヨネーズ 8
潤滑油 0.058 20℃
エタノール 0.001084 25℃
水 0.000890 25℃
空気 1.8×10−5 20℃
ヘリウム 0 超流動状態
英語版に0℃のいくつかの気体・液体についての粘度のデータがあるので参照されたい。

超流動(英語:superfluidity)とは、極低温において液体ヘリウムの流動性が高まり、容器の壁面をつたって外へ溢れ出たり、原子一個が通れる程度の隙間に浸透したりする現象で、量子効果が巨視的に現れたものである。1937年、ヘリウム4が超流動性を示すことをピョートル・カピッツァが発見した。

ヘリウム4は、零点振動の効果により低温で液化しても、絶対零度に到るまで液体のままで存在する。つまり、固体にはならない。そして、2.17K(ケルビン)で比熱の跳びがあり、二次の相転移を起こし超流動の状態となる。この転移温度のことを比熱の跳びの形からλ点という。

超流動状態では、ヘリウム4は粘性が0の状態(He II相)になっており、壁を登っていったり、原子一個が通れる隙間さえあればそこから漏れ出す。ただ、有限温度の領域では常流体(普通の液体としての性質を示す:He I相)と超流体(粘性ゼロ:He II相)が共存している(→二流体理論)。超流体の状態では、ボース粒子であるヘリウム4がボース凝縮している。

超流体部分がボース凝縮しているのではないかということは、1938年、フリッツ・ロンドンによって最初に指摘された。ロンドンは、ヘリウム4原子を理想ボース気体とみなして、超流動の転移温度をボース凝縮温度とし、その理論値3.13Kを導いた。この値は実験観測値2.17Kに近い値と言える。値のずれは、超流動状態にあるヘリウム4は液体状態であり、理想ボース気体とは異なる状態であること、ヘリウム原子間の相互作用、原子同士が接近したときに働く強い斥力の影響などによる。理想ボース気体では、粒子間の相互作用を考慮していないが、その後、相互作用のある場合への理論的な拡張が行われている。ただ、理想ボース気体でのボース凝縮状態への相転移は三次の相転移であるが、ヘリウム4(ヘリウム3も同様)の超流動への転移は二次の相転移である。この部分に対する理論面からの解釈はまだ十分なされていない。

また、超流動状態では非常に高い熱の伝導性を示す。これは、熱源に対してヘリウム4のうちの超流動成分が近づくように、常流動成分が遠ざかるように運動するためである(一種の対流であると言える)。この高い熱伝導性により、超流動ヘリウムは全体が熱的に非常に均一になっている。

ヘリウム3は、ヘリウム4と異なりフェルミ粒子である(1/2の核スピンを持つ)ので、1972年、オシェロフ、リチャードソン、リー等が発見するまで超流動現象は観測されなかった。

ヘリウム3での超流動へ転移する温度は、34気圧で2.6mK(ミリケルビン)、0気圧でおよそ1mKと、ヘリウム4と比べて非常に低い。これは、ヘリウム3がフェルミ粒子で、そのままでは凝縮状態とならないためである。ヘリウム3が超流動になるためには、超伝導の場合と同様に2個のヘリウム3が対(ペア:この場合もクーパーペア(クーパー対)ということがある)を成して対凝縮する必要がある。ただ超伝導の場合と異なるのは、通常のBCS理論の枠内の超伝導では、電子対がs波一重項 (L=0, S=0) なのに対し、ヘリウム3の対はp波三重項 (L=1, S=1) となっている。ヘリウム3の対を形成する駆動力(従来型の超伝導におけるフォノンに相当)は、スピンのゆらぎと思われている。

なお、ヘリウム3の超流動機構は、超伝導(BCS理論)ほどには理論面での詳細な解明がなされていない。

BCS理論(ビーシーエスりろん、BCS theory、Bardeen Cooper Schrieffer)とは、1911年の超伝導現象発見以来、初めてこの現象を微視的に解明した理論。1957年に米国、イリノイ大学のジョン・バーディーン、レオン・クーパー、ジョン・ロバート・シュリーファーの三人によって提唱された。三人の名前の頭文字からBCSと付けられた。この理論によると超伝導転移温度や比熱などが、式により表される。三人はこの業績により1972年のノーベル物理学賞を受賞した。

1911年、カマリン・オンネスによって発見された超伝導は、その後多くの研究者の注目を浴び、数多くの実験的、理論的研究がなされた。しかしながら、実験面では多くの成果が得られた半面、理論的な面での解明は遅々として進まなかった。1950年には超伝導体の同位体で転移温度が異なることが発見された。これに着目したJ.バーディーン(当時、ベル研究所、のちにイリノイ大学教授)は、直感的にフォノン(抵抗の微視的単位)に超伝導の原因があるとし、研究を進めた。1956年バーディーンがイリノイに招聘したL.クーパーが、フォノンを媒介とする電子対ではエネルギーが下がることを発見した。続いて、J.バーディーン教授の大学院生であったJ.シュリーファー超伝導状態を表す波動関数を導いて、解明の土台を築いた。そしてカマリン・オンネスの発見から40年以上経った、1957年、バーディーン、クーパー、シュリーファーの三人によって提唱された超伝導を説明する理論(BCS理論)により一応の決着を見た[1]。ボーズ-アインシュタイン凝縮と超伝導は、ボゴリューボフによって示されたいわゆるボゴリューボフ変換を通して、同時に解明することができる。

超伝導状態を実現するためには電子系が何らかの凝集状態にある必要がある。しかし、電子はフェルミ粒子であり、パウリの排他律からくる制限により、そのままでは凝集できない。

超伝導状態を実現するためには、電子がペア(対)となってボソン化し、最低エネルギー状態に集団で凝縮(ボース凝縮とみなせる状態)する必要がある。このためには、電子同士がお互い斥力を及ぼし合う状態から、何らかの有効な引力が電子同士に働く状態になる必要がある。

BCS理論では電子-格子相互作用を介して電子同士がフォノンを仮想的に交換(或いはフォノンを介して運動量を交換)することによって、電子同士に引力が働くと考える。この引力によって生じる電子対(スピンは互いに逆向き、かつ対の全運動量がゼロ)をクーパー対(クーパーペア)と言う。

この引力的な相互作用が効きうる範囲は、フォノンと関わりの深いデバイ振動数を
ω
D
{\displaystyle \omega _{D}}とし、そのデバイエネルギーを

ω
D
{\displaystyle \hbar \omega _{D}}とすると、フェルミエネルギーの上下

ω
D
{\displaystyle \hbar \omega _{D}}の範囲内と考えられる。この時、金属では通常、
ϵ
F

ω
D
{\displaystyle \epsilon _{F}\gg \omega _{D}}である。

単純な金属を考え、伝導電子は電子ガス模型で記述できるとする。電子間に有効的な引力 (-g, g > 0) が存在すると考え、引力の働く状態を記述する電子ガスのハミルトニアンは、系の体積をVとして、

H
=

k
,
σ
ϵ
k
c
k
σ

c
k
σ

g
V

k
,
k

,
q

c
k
+
q


c

k


c

k


c
k

+
q

{\displaystyle H=\sum _{\mathbf {k} ,\sigma }\epsilon _{\mathbf {k} }c_{\mathbf {k} \sigma }^{\dagger }c_{\mathbf {k} \sigma }-{g \over V}{\sum _{\mathbf {k} ,\mathbf {k'} ,\mathbf {q} }}'c_{\mathbf {k} +\mathbf {q} \uparrow }^{\dagger }c_{-\mathbf {k} \downarrow }^{\dagger }c_{-\mathbf {k} '\downarrow }c_{\mathbf {k} '+\mathbf {q} \uparrow }}

となる。σはスピンの↑、↓の指標。
c

{\displaystyle c^{\dagger }}は生成演算子
c
{\displaystyle \,c}は消滅演算子である。和Σ'はεFを挟んだ
2

w
D
{\displaystyle 2\hbar w_{D}}の範囲内のみで和を取ることを意味する。また、

ϵ
k
=

2
k
2
2
m

μ
{\displaystyle \epsilon _{\mathbf {k} }={\hbar ^{2}k^{2} \over {2m}}-\mu }

である(一電子状態のエネルギー←運動エネルギーの形になっている)。mは電子の質量、μは化学ポテンシャルである。尚、フェルミエネルギーを

ϵ
F
=
ϵ
k
=
0
{\displaystyle \epsilon _{F}=\epsilon _{\mathbf {k} }=0}

として、エネルギーの原点とみなす。

常伝導状態の最低エネルギー状態の波動関数、|Φ0>は、電子間に有効的な引力の働く-gの存在下では最早最低のエネルギー状態でなくなる。この状態(=超伝導状態)は、以下に示す変分波動関数

|
ϕ
B
C
S

=

k
(
u
k
+
v
k
c

k


c
k


)
|
v
a
c
u
u
m

{\displaystyle \left|\phi _{\rm {BCS}}\right\rangle =\prod _{\mathbf {k} }(u_{\mathbf {k} }+v_{\mathbf {k} }c_{-\mathbf {k} \downarrow }^{\dagger }c_{\mathbf {k} \uparrow }^{\dagger })\left|{\rm {vacuum}}\right\rangle }

を解くことによって求められる。|vacuum >は真空状態、uk、vkは変分パラメータであり、

u
k
2
+
v
k
2
=
1
{\displaystyle u_{\mathbf {k} }^{2}+v_{\mathbf {k} }^{2}=1}

という制限が課されている。変分の結果、gがどんなに小さくても、|ΦBCS >は、|Φ0>よりエネルギーが下がることが示せる。尚、


ϕ
B
C
S
|
c
k

c

k

|
ϕ
B
C
S

=
u
k
v
k

0
{\displaystyle \left\langle \phi _{\rm {BCS}}|c_{\mathbf {k} \uparrow }c_{-\mathbf {k} \downarrow }|\phi _{\rm {BCS}}\right\rangle =u_{\mathbf {k} }v_{\mathbf {k} }\neq 0}

超伝導状態となる条件である。

BCS理論から予想される超伝導転移温度の上限は、およそ30 - 40 K(ケルビン)と考えられている(注:もっと高くなり得ると主張する研究者もいる)。従って、現時点(2003年)で液体窒素温度よりも更に高い超伝導転移温度を示す高温超伝導を、BCS理論の枠内だけで説明することは多くの研究者は不可能と考えている。電子がクーパー対をつくりボース凝縮していることは確かだが、その駆動力がBCS理論のようにフォノン(電子‐格子相互作用)だけとは考えられていない。ただ現在提案されている理論によって軽重の差があるが、フォノンも高温超伝導を引き起こす機構に何らかの関わりを持っていると考えられている。

高温超伝導における電子間の引力を引き起こす(つまりクーパー対を作る)駆動力としてはスピンのゆらぎ(或いはマグノン)などが挙げられる。

マグノン(英: magnon)は、結晶格子中の電子のスピンの構造を量子化した準粒子である。一方、結晶格子中での原子やイオンの振動を量子化した準粒子は、フォノンという。量子力学における波の描像では、マグノンはスピン波を量子化したものと見なすことができる。準粒子として、マグノンは一定の量のエネルギーと格子運動量を運搬する。プランク定数を2πで割ったディラック定数のスピンを持つ。

1930年にフェリックス・ブロッホによって、強磁性体の自発磁化が減少する現象を説明するために導入された。
その後、量子化されたスピン波の量子理論は、Theodore Holstein and Henry Primakoff (1940) やフリーマン・ダイソン (1956) によって発展させられた。彼らは第二量子化の形式を用いることで、マグノンがボース=アインシュタイン統計に従い、弱く相互作用する準粒子であることを示した。
1957年にはバートラム・ブロックハウスがフェライト相中の非弾性中性子散乱を用いて、実験的に直接検出した。それ以来、マグノンは強磁性体、フェリ磁性体、反強磁性体の中で検出されている。
マグノンがボース=アインシュタイン統計に従うという事実は、1960年代から1980年代に、マグノンからの光散乱実験によって確認された。

分子運動論によれば、粘度μと平均自由行程l との間には次の関係がある[2]。

μ
=
ϕ
l
P
8
m
g
π
k
T
\mu =\phi lP{\sqrt {{\frac {8m_{g}}{\pi kT}}}}
ただし

φは気体の種類による無次元定数
理想気体でφ = 1/3
空気でφ = 0.499
P :圧力
T :絶対温度
k :ボルツマン定数
mg :気体分子の質量
である。

低圧(10気圧程度以下)の気体に対しては以下の式もある[9]が、温度T の依存性は実際とはあまりよく合わない。

μ
=
2
3
d
2
m
g
k
T
π
3
\mu ={\frac {2}{3d^{2}}}{\sqrt {{\frac {m_{g}kT}{\pi ^{3}}}}}
d :分子(球で近似)の直径
液体に対しては Eyring による、絶対反応速度論を用いた次の式がある[9]。

μ
=
N
A
h
V
~
exp

(
Δ
G

0
R
T
)
\mu ={\frac {N_{{\mathrm {A}}}h}{{\tilde {V}}}}\exp \left({\frac {\Delta G_{\dagger }^{0}}{RT}}\right)
NA :アボガドロ定数
h :単位物質量あたりのエンタルピー
V
~
{\tilde {V}}:分子のモル体積
Δ
G

0
\Delta G_{\dagger }^{0}:活性化自由エネルギー;経験公式が提案されている。

粘度に関係する無次元数には以下のものがある:

レイノルズ数 - 慣性との比
グラスホフ数 - 重力あるいは浮力との比
プラントル数 - 熱拡散率との比
キャピラリ数 - 表面張力との比
シュミット数 - 物質拡散係数との比

グラスホフ数(英:Grashof Number)は、伝熱現象、物質移動現象に関して、流れ場における粘性力に対する浮力の相対的な影響を示す無次元数である。自然対流を特徴付ける指標となる[1]。

G
r
=
g
ρ
2
β
Δ
θ
L
3
η
2
Gr = \frac{g\rho^2\beta\Delta\theta L^3}{\eta^2}
ここで、

g : 重力加速度 [m/s2]
ρ : 密度 [kg/m3]
L : 代表長さ [m]
η : 粘度 [Pa s]
であり、伝熱現象の場合はβ、Δθには体膨張係数 [1/K] および温度差 [K] をそれぞれ用いる。一方、物質移動現象の場合には、βには濃度に関する体膨張係数 [m3/mol]、Δθには濃度差 [mol/m3] をそれぞれ用いる。

ドイツの工学者、フランツ・グラスホフ(英語版)に由来する。

プラントル数(プラントルすう、英: Prandtl number)は熱伝導に関する無次元の物性値であり、流体の動粘度と温度拡散率の比である。名称はルートヴィヒ・プラントルにちなむ。

しばしば Pr と書かれ、次の式で定義される:

P
r
=
ν
α
=
η
c
p
k
\mathit{Pr} = \frac{\nu}{\alpha} = \frac{\eta c_\mathrm{p}}{k}
ここで

ν = η/ρ : 動粘度
α = k/(ρcp) : 温度拡散率


η : 粘度 (Pa s)
k : 熱伝導率(J s-1m-1K-1)
ρ : 密度(kg m-3)
cp : 比熱(J kg-1K-1)

熱対流における対流セルの水平パターンは、実際の流体の空間スケールに関係なく、プラントル数とレイリー数の関係によって決まることが知られている。プラントル数が大きいほど定常な対流セルを得やすいため、実験ではプラントル数の大きいシリコンオイルなどを用いることがある。

プラントル数の大きな流体は以下の性質を持つ:

粘度 > 温度拡散率
速度境界層厚さ > 温度境界層厚さ
断熱的性質を持つ。

流体力学におけるキャピラリー数(キャピラリーすう、Ca)は、粘性力と異なる流体間の境界に作用する表面張力との比を表す。例えば、流れの中にある気泡は、粘性の効果によって変形しようとするが、表面張力はその効果によって表面積を最小の状態にしようとする。キャピラリー数は、次のように定義される。[1]

C
a
=
μ
V
σ
.
{\displaystyle Ca={\frac {\mu V}{\sigma }}.}
ここで、μ は液体の粘性係数、V は代表速度、
σ
\sigma は表面張力、または二種の流体間での界面張力を示す。

この時、分母、分子の次元は同一である。つまり、キャピラリー数は無次元数である。

シュミット数(シュミットすう、英: Schmidt number[1])は、流体の動粘度と拡散係数の比を表す無次元数であり、伝熱現象におけるプラントル数に対応する物性値である。

S
c
=
μ
D
=
η
ρ
D
Sc=\frac{\mu}{D}=\frac{\eta}{\rho D}
μ : 動粘度 [m2/s]
D : 拡散係数 [m2/s]
η : 粘度 [Pa s]
ρ : 密度 [kg/m3]
気体のシュミット数はおよそ0.2から5程度、液体の場合は103から104程度の値をとる。

境膜物質移動係数(及びそれを無次元化したシャーウッド数)は、シュミット数、レイノルズ数及びグラスホフ数の関数として表されることが知られており、種々の半経験式が報告されている。