ソクラテス

ソクラテス『自分自身が無知であることを知っている人間は、自分自身が無知であることを知らない人間より賢い。』ムチ。ワタシはムチ。ムチをふりかざすムチ。古代ギリシア人はドレイよってロウドウからカイホウサレました。サレマシタ。去れ真下。俺にとっちゃここが地獄。気が向いたときに起きます。パパイヤ鈴木。朝から晩まで家族の為に働く事が幸せですか?なぜ働かなければならないのか。なぜ勉強しなければならないのか。そこを一番最初に考えろ。

tert-ブチル基

tert-ブチル基(ターシャリーブチルき、tertiary butyl group)または三級ブチル基(さんきゅうぶちるき)は有機化学における原子団の1つで、分枝アルキル基の一種。構造式は (CH3)3C−, IUPAC組織名では 1,1-ジメチルエチル(1,1-dimethylethyl)基と言い表される[1]。IUPAC命名法で許容された慣用名として三級ブチル基と称することが多く、その略号としてt-ブチル基とも称される。構造式中では t-Bu または tBu などと省略される。そのかさ高さ、3つのメチル基による電子供与性などから、この基を有する化合物は立体配置や反応性において特徴的な性質を示すことが多く、しばしば有機化学研究でその性質が応用される。が天然物に含まれることは極めてまれである。

tert-ブチル基は3つのメチル基が空間に向けて張り出しているため、その α 位にある官能基は他の試薬の攻撃を受けにくくなる。例えばシリルエーテルが酸または塩基存在下に加溶媒分解される際、トリメチルシリル (TMS) エーテルに比べ tert-ブチルジメチルシリル(TBS または TBDMS)エーテルは約2万倍も安定となる。この場合 O-シリル基の酸素原子は tert-ブチル基の β 位であるが、溶媒分子は α 位のケイ素原子に対して求核攻撃しており、プロトネーションによるアルキルエーテルの E1 脱離(後述の tert-ブチルエーテルの E1 脱離)とアルキルシリル基の脱離とは反応機構が異なる。

また tert-ブチルシクロヘキサンにおいて、tert-ブチル基がアキシャル位をとるような立体配置は、シクロヘキサン環上で3および5位の水素原子とtert-ブチル基との立体反発が起こるため極めて不利になる。ゆえに回転ポテンシャル的に有利な、 tert-ブチル基がエカトリアル位にある立体配置をとるようになる。

tert-ブチルカチオンは3つのメチル基から電子供与を受けるため炭素陽イオンとしては極めて安定である。このため次節で述べるように tert-ブチルエーテルや tert-ブチルエステルは強酸条件で開裂しやすく、保護基として用いることができる。

高い電子供与性は C−H の酸性度を減弱させ、大きな立体障害は求核性を減弱させる。この2つの作用により tert-ブチルリチウムは有機合成において利用しうる最強の塩基の1つとなっている。また、プロトン引き抜き剤ではなく1電子還元剤として作用することもある。

ヒドロキシ基やカルボキシ基をそれぞれ tert-ブチルエーテルや tert-ブチルエステルとして保護するのに用いられる。共に強酸性条件で切断される。前者は塩基性加水分解条件、求核剤、ヒドリド還元、接触還元などの条件に全く安定である。後者もそのかさ高さのため、通常のエステルに比べ加水分解や求核剤に強く、接触還元などに対しては安定である。

tert-ブチル化
アルコールやカルボン酸を適当な溶媒に溶解し、触媒量の硫酸存在下イソブテンを吹き込みながら反応させる。tert-ブチルエステルはカルボン酸とtert-ブチルアルコールの縮合などによっても得られる。

一方 N-tert-ブチル基やS-tert-ブチル基は酸性条件下でも安定で脱保護が困難な場面が多いため、通常 tert-ブチル基はアミンやチオールの保護基としては用いられない。

脱保護
トリフルオロ酢酸または4規定塩酸-酢酸エチル溶液などを作用させる。副生成物はイソブテンのみであるため、単に溶媒を留去するだけで収率よく脱保護体が得られる。ただしスルフィド基などが存在すると tert-ブチルカルボカチオンが硫黄原子に付加するので、tert-ブチル基のスカベンジャー(捕捉剤)を脱保護の際に必要とする場合もある。

ラーモア歳差運動:アクロニムでLP:ラーモア周波数とも(ニュートリノの検出と四塩化炭素)tert-Bu基

アッペル反応(—反応、Appel reaction)とは、有機化学における合成反応のひとつでトリフェニルホスフィンと四塩化炭素の作用により、アルコール (R-OH) を塩化アルキル (R-Cl) に変換する手法[1]。

アッペル反応
アッペル反応は、穏和な条件で有機化合物にハロゲン原子を導入できる手法であり、1級、2級、そしてほとんどの3級アルコールに対して有効である。反応性が低い時は、四塩化炭素の代わりにヘキサクロロアセトンやトリホスゲンなどを塩素源として用いるとうまく行くことがある。

四塩化炭素の代わりに四臭化炭素を用いれば臭化アルキルを得ることができる。また、ヨードメタンやヨウ素をハロゲン源とするとヨウ化アルキルが生成する。

アッペル反応の最初の段階は、トリフェニルホスフィン (1) と四塩化炭素の反応によるホスホニウム塩 2 の生成である。トリクロロメタニドアニオンがアルコールからプロトンを引き抜きアルコキシドアニオンが生成すると (4)、リン上の塩素と置き換わりアルコキシホスホニウム 5 となる。酸素に隣接する炭素上で塩化物イオンによる求核置換反応が起こり、最終生成物の塩化アルキル 6 がトリフェニルホスフィンオキシド (7) とともに生じる。最後の求核置換反応は、基質が 1級および2級アルコールの場合では SN2機構で、3級アルコールの場合では SN1機構で起こる。

The mechanism of the Appel reaction
この反応は、トリフェニルホスフィンオキシドの生成を駆動力とする。

ラニオールを塩化ゲラニルに変換した例が知られる[2]。

ラニオール (geraniol) はゼラニウムから発見された直鎖モノテルペノイドの一種。主にローズオイル、パルマローザ油、シトロネラ油に含まれる。また、ゼラニウムやレモン、いくつかの精油にも含まれている。無色または薄い黄色の液体で、水には溶けないが多くの有機溶媒には溶ける。バラに似た芳香を持ち、広く香水に使われている。また、モモ、ラズベリー、グレープフルーツ、リンゴ、プラム、ライム、オレンジ、レモン、スイカ、パイナップル、ブルーベリーのような芳香としても用いられる。

研究によって、防蚊剤の効果があることが示されている[1][2]。また、ミツバチはニオイ腺で合成したゲラニオールを使って蜜を持っている花とミツバチの巣の入口を標識する。

ラニオールが置換基となったときはゲラニル基と呼ばれ、他のテルペンの生合成にとって重要である。

酸性溶液中ではゲラニオールは環化してα-テルピネオールとなる。

コーリー・フックス反応(コーリー・フックスはんのう、Corey-Fuchs reaction)は、アルデヒドからジブロモオレフィンを経てアルキン誘導体を合成する有機反応のひとつである。1972年、イライアス・コーリーとその学生 P. L. フックスによって発表された[1]。元のアルデヒドから一炭素増炭したアルキンが得られることになる。強塩基(n-ブチルリチウムなど)を用いるため、これに耐えない基質には使えないという欠点があるが、多くの場合収率よく反応が進行するためアルキン類の有力な合成手段となっている。

Corey-Fuchs Reaction Scheme.png
第一段階のジブロモオレフィン合成は、アルデヒドに対して氷温〜室温で四臭化炭素とトリフェニルホスフィンを作用させることで行われる。ウィッティヒ反応と類似の機構で進行すると考えられる。最低四臭化炭素1当量、トリフェニルホスフィン2当量が必要だが、実際にはさらに過剰量使うことが多い。

ジブロモオレフィンを低温下過剰量(2当量以上必要)のブチルリチウムで処理することによって脱離反応が起こり、リチウムアセチリド (R-C≡CLi) が生じる。これを水で処理すれば末端アルキンが得られる。また生じたアセチリドに求電子剤を作用させれば、ワンポットで2置換アルキンを得ることもできる。求電子剤としてアルデヒドやケトンを用いればプロパルギルアルコール誘導体が、クロロギ酸エステル類を用いればアセチレンカルボン酸エステルが得られることになる。

この反応の中間体となっているジブロモオレフィンに DMSO 中で DBU を反応させると脱HBr化により ω-ブロモアルキンが得られる[2]。

ジメチルスルホキシド (Dimethyl sulfoxide、略称DMSO) は、分子式 C2H6SO、示性式 CH3SOCH3、又は、(CH3)2SO で表される有機化合物である。純度の高いものは無色無臭だが、長く貯蔵したものは分解物である硫黄化合物の臭気(磯の香りに似ている)を持つ。非常に吸湿性が高い。

皮膚への浸透性が非常に高いことでも知られている。ジメチルスルホキシド自体は毒性は低いが、他の物質が混入している場合、他物質の皮膚への浸透が促進されるので取り扱いには注意を要する。

ジアザビシクロウンデセン (1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene) とは、有機合成化学で用いられる反応試剤のひとつ。もっぱら DBU の略称で呼ばれるが、DBUはサンアプロ(三洋化成とエア・プロダクツ&ケミカルズ(英語版)の合弁会社)の登録商標である。アミン臭を示す無色の液体。

DBU はアミジン部位に由来する強塩基性を持ち、さらに求核性が比較的弱いことから、脱ハロゲン化水素を行う場合の塩基として用いられる。特に、通常のアミンを使えば副反応として求核置換反応が起こる可能性のある系において DBU が利用される。

ハロゲン化アルキルからアルケンを、ジハロゲン化アルキルからアルキンを与える反応が代表的であるが、基質はハロアルカンに限らない。ハロゲン化アルケニルをアルキンに、1,1-ジハロゲン化アルケニルをハロゲン化アルキニルに変えることもできる。

DBU と同様の反応性が利用される試剤に、ジアザビシクロノネン (DBN) がある。

ワンポット合成(—ごうせい、One-pot synthesis)とは、反応容器(通常はフラスコ)に反応物を順に投入することで多段階の反応を行う合成手法である。

多くのファインケミカル製品は多段階合成によって得られる。通常、多段階で合成を行う際には、1つの反応を行った後に、目的物を単離して精製してから次の段階の反応を行うというプロセスを繰り返す。それは、過剰に使った反応剤や副生成物が次の反応を阻害するだけでなく、十分に精製せずに次の反応を行うと、蓄積する不純物のために生成物の単離が困難になるからである。次のような多段階反応でAからEを合成する時、

A

X
B

Y
C

Z
D

W
E
{\displaystyle A{\xrightarrow {X}}B{\xrightarrow {Y}}C{\xrightarrow {Z}}D{\xrightarrow {W}}E}

ワンポット合成では、まずフラスコにA(と溶媒)を入れ、Xを加えてAがBに完全に変換されたことを確認したら、Bを単離せずに(必要に応じて溶媒を交換して)そのままYを加える。さらにZとWを順に加えていき、Eを合成する。Eが得られたところで初めて単離精製を行なう。ワンポット合成を行うためには、過剰の反応剤を使わずに反応を定量的に進行させ、反応物が系中に残らないようにしなければならないため、高度の反応制御を必要とする。しかし、ワンポット合成では各段階で単離精製を行なわないだけでなく、反応容器を1つしか使わないので、プロセスが大幅に簡略化される。単離、精製のプロセスは、溶媒を大量に使い、多量の廃棄物を生じ、時間も労力もかかる作業であるため、コストの観点からもグリーンケミストリーの観点からも好ましくない。また、単離精製プロセスで生成物の一部が失われると収率の低下を招く。そのため、多段階合成をワンポット化できれば、経済的に大きなメリットとなる。

たとえ1つのフラスコで複数の連続する反応を行ったとしても、グリニャール反応のように反応性が高くて単離が困難な中間体を生成する場合は、その中間体を単離せずに反応を進めることが通常の操作であるため、ワンポット合成とは呼ばない。また、ヒドロホウ素化–酸化反応のように、二段階目以降の反応が後処理として実行される反応や比較的単純な官能基変換反応であるものはワンポット合成とは呼ばれないことが多い。

林雄二郎 らはDPP4の選択的阻害剤であるABT-341をワンポット合成した[1]。有機触媒による不斉Michael付加反応、Michael付加と連続する分子内Horner–Wadsworth–Emmons反応、熱力学的に安定なトランス体への異性化、tert-ブチル基の酸分解、アミンとの縮合、ニトロ基の還元と、6段階にもおよぶ多段階反応を、途中でいっさい単離精製せずにワンポットで行なうために、多くの工夫がされている。各段階では溶媒が最適化されており、溶媒の入れ替えが行われている。そのため、反応剤と溶媒には、特に反応の前半では揮発性の高いものが選ばれている。第二段階で塩基として使われた炭酸セシウムエタノールと塩化トリメチルシリルから発生させた塩化水素で中和され、以後の反応に影響しない塩化セシウムに変換されている。ワンポット合成を行うことにより、ABT-341が63%と収率よく得られただけでなく、合成に必要な時間と労力、廃棄物の総量が大きく減少している。

さらに、林らは2009年に3ポット、2010年に2ポット、そして2013年にワンポットでのオセルタミビルの合成に成功した[2][3]。

四塩化炭素(しえんかたんそ、英: carbon tetrachloride)あるいはテトラクロロメタン(英: tetrachloromethane)は、化学式 CCl4 で表される化学物質。

20世紀前半には、ドライクリーニングの溶剤、冷却材、消火器の薬剤などに幅広く利用されていた。また機械器具の脱脂に使われ、オーディオなどでは接点復活剤やテープレコーダーヘッドの清掃溶剤として用いられてきた。しかし健康への悪影響が明らかになってくると代替物質への転換が進み、1940年をピークに使用量は減少していった。その後も貯蔵穀物に対する農薬として利用されていたが、アメリカ合衆国では1970年に消費財への使用が禁止された。

モントリオール議定書が成立するまでは、フロンの原料としても大量に使用されていた。その後フロンや四塩化炭素自体がオゾン層破壊物質と考えられるようになったため、四塩化炭素の使用量も減少していった。日本やアメリカ合衆国といった先進国では1996年までに生産が全廃されたが、発展途上国では2006年現在でも生産が認められている。

ニュートリノの検出にも用いられる。またアッペル反応では塩素源として利用される。

IRスペクトル(赤外分光測定)では > 1600 cm−1の領域で大きなシグナルを持たないため、時として赤外分光測定において便利な溶媒として用いられることがある。また水素原子を持たないため、1H−NMRの溶媒としても長年用いられてきた。しかし毒性が大きく溶解力が小さいという欠点を持っているため[1]、分光器によりロックをかけることができる重溶媒を用いることが主流となった。

核磁気共鳴(かくじききょうめい、英: nuclear magnetic resonance、NMR) は外部静磁場に置かれた原子核が固有の周波数の電磁波と相互作用する現象である。

原子番号と質量数がともに偶数でない原子核は0でない核スピン量子数 I と磁気双極子モーメントを持ち、その原子は小さな磁石と見なすことができる。磁石に対して磁場をかけると磁石は磁場ベクトルの周りを一定の周波数で歳差運動する。原子核も同様に磁気双極子モーメントが歳差運動を行なう。この原子核の磁気双極子モーメントの歳差運動の周波数はラーモア周波数と呼ばれる。この原子核に対してラーモア周波数と同じ周波数で回転する回転磁場をかけると磁場と原子核の間に共鳴が起こる。この共鳴現象が核磁気共鳴と呼ばれる。

磁場中に置かれた原子核ゼーマン効果によって磁場の強度に比例する、一定のエネルギー差を持った 2I + 1 個のエネルギー状態をとる。このエネルギー差はちょうど周波数がラーモア周波数の光子の持つエネルギーと一致する。そのため、共鳴時において電磁波の共鳴吸収あるいは放出が起こり、これにより共鳴現象を検知することができる。

ベクトルモデルとは、様々なスピン集団の中でただ一種類のスピン集団だけを問題にし、このスピン集団の振る舞いを「古典的な磁化ベクトルの動き」として考える方法である。ベクトルモデルで考えると、スピン集団の振る舞いが、一見すると1個のスピンのように表される。

フェリックス・ブロッホは現象論的な考察から、原子核が磁場中で作り出す磁化ベクトルの時間変化を以下の式で表現した。熱平衡状態の磁化の方向をz軸にとり、観測対象の原子核の磁気回転比をγ、かけられている磁場を
B
(
t
)
\bold {B} (t) 、時間tの磁化を
M
(
t
)
=
(
M
x
(
t
)
,
M
y
(
t
)
,
M
z
(
t
)
)
\mathbf{M}(t)=\big( M_x(t),M_y(t),M_z(t) \big)、熱平衡状態の磁化を
M
0
M_{0}とすると、

d
M
x
(
t
)
d
t
=
γ
(
M
(
t
)
×
B
(
t
)
)
x

M
x
(
t
)
T
2
\frac {d M_x(t)} {d t} = \gamma ( \bold {M} (t) \times \bold {B} (t) ) _x - \frac {M_x(t)} {T_2}
d
M
y
(
t
)
d
t
=
γ
(
M
(
t
)
×
B
(
t
)
)
y

M
y
(
t
)
T
2
\frac {d M_y(t)} {d t} = \gamma ( \bold {M} (t) \times \bold {B} (t) ) _y - \frac {M_y(t)} {T_2}
d
M
z
(
t
)
d
t
=
γ
(
M
(
t
)
×
B
(
t
)
)
z

M
z
(
t
)

M
0
T
1
\frac {d M_z(t)} {d t} = \gamma ( \bold {M} (t) \times \bold {B} (t) ) _z - \frac {M_z(t) - M_0} {T_1}
ここで下付き文字x,y,zはベクトルのx成分、y成分、z成分を表す。T1はz軸方向の磁化(縦磁化)の緩和(縦緩和)の時定数、T2はxy平面内の磁化(横磁化)の緩和(横緩和)の時定数である。これをブロッホの方程式という。

静磁場B0の元でこの方程式を解くと、磁化のxy平面内の成分は周波数γB0で歳差運動を行なうことがわかる。この周波数はラーモア周波数そのものである。

次にラーモア周波数と同じ周波数で回転している回転座標系からの観測について考える。この回転系ではラーモア周波数で回転する磁化ベクトルは静止して見える。つまり回転系ではラーモア歳差の原因となっている磁場B0が存在しないかのように見える。回転系で熱平衡状態の磁化ベクトルに対し、xy平面内で回転する磁場をかけることを考える。周波数がラーモア周波数以外の回転磁場をかけたとき、回転系から見ると回転磁場はラーモア周波数との差の周波数で回転しているように見える。この場合、ある方向に磁場がかかる場合とそれと逆方向に磁場がかかる機会は等しく存在する。これらの反対向きの磁場による磁化ベクトルの運動はおおよそ相殺されるため、磁化ベクトルは熱平衡状態のままほとんど変化しない。すなわち共鳴は起こらないことになる。一方、ラーモア周波数の回転磁場をかけたときには、回転系から見ると回転磁場はある軸(ここでは仮にx軸とする)上に静止して見える。このとき磁化ベクトルは回転系から見るとyz平面内を回転運動するように見える。磁化ベクトルがz軸上からどの程度回転するかは、回転磁場の強度およびその継続時間による。磁化ベクトルをz軸からn度回転させるような回転磁場はn度パルスと呼ばれる。磁化ベクトルがz軸から回転することによって生じた磁化のxy成分は慣性系から見ればラーモア周波数で歳差運動する。この歳差運動はコイルで誘導電流として検知することができる。これはFT-NMRの基本的な原理である。

なお実際のNMRの観測においては回転磁場の代わりに同じ周波数の振動磁場を用いる。振動磁場は逆方向に回転する2つの回転磁場の和と考えられ、核磁気共鳴を引き起こす回転磁場と逆方向に回転している磁場は共鳴にほとんど影響しないからである。

NMR の観測は磁化ベクトルの変化を検出することによって行なう。磁化ベクトルは試料内の個々の核スピンから生じる磁気双極子モーメントの総和である。よって NMR は理論的には核スピンの集団の磁場に対する応答として記述される。このような集団の状態は量子力学では密度演算子によって記述される。

密度演算子の時間発展を表す方程式はリウヴィル=フォン・ノイマン方程式である。この方程式には注目しているスピン系とその周囲の環境(格子と呼ばれる)全体を記述する密度演算子が含まれている。しかし、通常 NMR の挙動を解析するためには注目しているスピン系の情報さえ分かれば充分である。そこで次のような、スピン系のみの簡約化された密度演算子に対する変形したリウヴィル=フォン・ノイマン方程式が用いられる(なお、ここでは式は NMR 分野での慣用に従い、ディラック定数を省略してエネルギーを角周波数単位で表す方法を用いている)。

d
d
t
ρ
=

i
[
H
,
ρ
]

Γ
{
ρ

ρ
0
}
.
\frac{d}{dt} \rho = -i \left[ H, \rho \right] - \Gamma \left\{ \rho - \rho_0 \right\}.

ここで、ρ はスピン系の密度演算子、H はスピン系のハミルトニアン、Γ は緩和を表す演算子、ρ0 は熱平衡状態のスピン系の密度演算子である。スピンの x 成分、y 成分、z 成分の統計的期待値は、Ix, Iy, Iz をそれぞれスピンの x, y, z 成分の演算子とすると、それぞれ ρ⋅Ix, ρ⋅Iy, ρ⋅Iz の行列表現のトレースに等しい。


I
x
⟩ =Tr⁡{ρ
I
x
}, ⟨
I
y
⟩ =Tr⁡{ρ
I
y
}, ⟨
I
z
⟩ =Tr⁡{ρ
I
z
}.\begin{align}
\langle I_x \rangle &= \operatorname{Tr} \{\rho I_x\}, \\
\langle I_y \rangle &= \operatorname{Tr} \{\rho I_y\}, \\
\langle I_z \rangle &= \operatorname{Tr} \{\rho I_z\}. \\
\end{align}

スピンにより生じる磁気双極子モーメントはスピンの期待値ベクトルと γ(h/2π) の積となる。さらに磁化ベクトルは磁気双極子モーメントと系内の核スピンの個数の積となる。

相互作用ハミルトニアンの具体的な形は、周囲に何も存在しない裸の核スピンがただ1つ存在する場合はゼーマン相互作用のみなので以下のように書ける。

H
^
=

γ
I

B
0
\hat{H}=-\gamma I \sdot B_0
ここでIは核スピン演算子である。

実際には周囲の電子や他のスピンとの相互作用の結果、相互作用ハミルトニアンにはさらに化学シフト項、スピン結合項、磁気双極子相互作用項、核四極子相互作用項などが付け加わる。以下にそれらの原因となる相互作用を示す。

原子核の周りには通常は電子が運動している。運動している電子は磁場を作り出すため、これにより原子核のラーモア周波数は影響を受ける。原子核の周りの電子の状態はその原子がどのような化学結合をしているのかに影響を受ける。そのため、その原子が構成している物質の違いによってラーモア周波数も異なる。この物質によるラーモア周波数の違いを化学シフト(ケミカルシフト)という。 ハミルトニアンの化学シフト項は以下のように表せる。

H
^
=
γ
I

σ

B
0
\hat{H}=\gamma I \sdot \sigma \sdot \bold{B}_0
ここで、σは化学シフトテンソルあるいは遮蔽テンソルと呼ばれる。このときのラーモア周波数は以下のようになる。

γ
B
0
{
[
(
1

σ
x
x
)
α
x
]
2
+
[
(
1

σ
y
y
)
α
y
]
2
+
[
(
1

σ
z
z
)
α
z
]
2
}
1
2
\gamma B_0 \left\{ \left[ (1-\sigma_xx) \alpha_x \right]^2 + \left[ (1-\sigma_yy) \alpha_y \right]^2+ \left[ (1-\sigma_zz) \alpha_z \right]^2 \right\}^{\frac{1}{2}}
ここでσxx、σyy、σzzは化学シフトテンソルの主値、αx、αy、αzは主軸から見た静磁場B0の方向余弦である。

観測している原子核が充分に速く等方的に運動している場合には、化学シフトテンソルは平均化されてスカラーσで表すことができる。これを遮蔽定数という。このときのラーモア周波数は以下のようになる。

γ
(
1

σ
)
B
0
\gamma (1- \sigma) B_0
いずれの場合もラーモア周波数は静磁場B0に比例する。化学シフトの値を議論する場合には、この磁場依存性をなくすためにラーモア周波数をγB0で割った無次元数を利用することが多い。

遮蔽定数σは反磁性項σdと常磁性項σpの和で表される。

σ
=
σ
d
+
σ
p
\sigma = \sigma_d + \sigma_p
反磁性項は電子のローレンツ力による回転運動により磁場が打ち消される(遮蔽)効果である。例えばs軌道の電子は磁場が存在しない状態では軌道角運動量が0である。しかし、ここに磁場をかけるとローレンツ力により軌道角運動量を持つようになる。この新たに生じた軌道角運動量により作り出される磁場が遮蔽をもたらす。

一方、常磁性項は磁場がかかったことによって電子の軌道が歪み、励起状態が混合することによって生じる項である。例えば電子のpx軌道は軌道角運動量l=±1の軌道が混合して作られている。磁場が無い場合にはこの2つの軌道は縮退しているために混合比も1:1であり結果としてpx軌道の軌道角運動量はクエンチされており0である。しかし磁場がかかると軌道の縮退が破れる。このとき、より安定化されるのは原子核の位置にかけられた磁場と同じ向きに磁場を生じるような軌道角運動量を持つ方の軌道である。軌道の混合比もより安定な軌道の寄与が大きくなるため、磁場を強める効果(脱遮蔽)をもたらす。

荒い近似では反磁性項は核からの電子の平均距離に反比例し、常磁性項は基底状態と混合する励起状態とのエネルギーに反比例し、電子の平均距離の3乗に反比例する。

σ
d

1
r
\sigma_d \propto \frac{1}{r}
σ
p

1
Δ
E
1
r
3
\sigma_p \propto \frac{1}{\Delta E} \frac{1}{r^3}
おおまかには原子番号が大きいほど基底状態励起状態のエネルギー差が小さいため、常磁性項の寄与が大きくなる。また、電子の平均距離は周期表の同じ周期に属する元素では原子番号が大きいものほど核電荷の増加により、小さくなり、やはり常磁性項の寄与が大きくなる。一般に反磁性項よりも常磁性項の大きさが上回り、常磁性項の寄与が大きくなるほど化学シフトの範囲も広くなる。プロトンでは化学シフトは高々20ppmの範囲に収まるが、鉛のような重原子では9000ppm程度まで大きくなる。

例えばプロトンでは、原子核の周囲を回転する電子が1つしかないため、反磁性項、常磁性項いずれの値も小さい。その結果、離れた場所に存在する電子の作り出す磁場が化学シフトに大きな影響を与える。特に分子内の電子が回転運動しやすい状態になっている場合、化学シフトが大きく変化する。代表的な例が芳香環を含む化合物のプロトンの化学シフトである。芳香環では環状にπ電子が非局在化しているため、電子の回転運動が容易な状態となっている。そのため、芳香族化合物に磁場をかけると環に沿って電子が回転運動する環電流が誘起される。環電流は環の平面内には大きな脱遮蔽効果を、環の鉛直方向には大きな遮蔽効果を生じる。また、溶媒の種類への化学シフトの依存性もプロトンが特に大きい。

スピン結合(スピンカップリング)は2つの核スピンI,Sが相互作用する結果、それぞれのラーモア周波数が相手の核スピン量子数に応じて変化する現象である。ハミルトニアンのスピン結合項は以下のように表される。

H
^
=
2
π
I

J

S
\hat{H}=2\pi I \sdot J \sdot S
この式のIとSはそれぞれの核のスピン演算子であり、J はスピン結合テンソルと呼ばれる。化学シフトテンソルと同じく観測している原子核が充分に速く等方的に運動しているときにはスカラー J で表すことができる。この J は周波数の次元を持ち、結合定数(カップリング定数)と呼ばれる。スピン結合は一般的に J で表されることからJ結合、またスカラーで表せることからスカラー結合と呼ばれる場合もある。

あるスピンIが、スピン量子数のz方向成分mzのスピンSと結合定数 J で結合しており、そのラーモア周波数の差が J よりもずっと大きい(弱いスピン結合)場合、スピンIのラーモア周波数は mzJ だけ変化する。スピンSのスピン量子数をmとすると、スピン量子数のz方向成分は-m, -m+1, …, m-1, mの2m+1個の値をとりうる。そのため、NMRにおいては J ずつ異なる2m+1個のラーモア周波数での共鳴が観測されることになる。スピンIが複数のスピンS1、スピンS2と結合していれば、スピンS1によって分裂した共鳴線がさらにスピンS2によって分裂することになる。スピンS1、スピンS2に対する J の値が等しい場合には、分裂した共鳴線が重なりあうため、周波数順に1:2:…:2m+1:…:2:1という特徴のある共鳴線の強度のパターンが現れる。ラーモア周波数の差が J と同程度である(強いスピン結合)場合、共鳴線の分裂は複雑になる場合が多い。また、ラーモア周波数の差がない場合、スピン結合自体は存在しても共鳴線の分裂は起こらない。

スピン結合は核スピン同士の直接の磁気的な相互作用によるものではない。磁気双極子相互作用によるスペクトルへの影響は原子が等方的な運動を行なっている場合には消失してしまうが、スピン結合はそうならない。スピン結合は結合電子を媒介にしたスピン同士の相互作用に起因する。媒介は電子のスピン角運動量か軌道角運動量を通じて行なわれる。原子I、原子S間の化学結合を構成する電子のスピン波動関数はα(I)β(S) - β(I)α(S)のように2つの状態の混合で表される。このとき原子Iおよび原子Sにαの電子がある確率と、βの電子がある確率は等しい。そのため、それぞれのスピンI,Sに及ぼされる電子スピンによる正味の磁場は0である。ここで原子Iにスピンがあることを考慮に入れる。もしIが同じ向きのスピンを持つ電子がIにある方が安定化するならば、Iがαの場合には波動関数のα(I)β(S)の項の比率が増加し、β(I)α(S)の項の比率が減少する。こうすると原子Sにはβスピンが存在する確率が増加する。その結果、原子Iにはαスピンの電子が作りだす磁場が、原子Sにはβスピンの電子が作り出す磁場が生じることになる。逆にIがβの場合には原子Iにはβスピンの電子が作りだす磁場が、原子Sにはαスピンの電子が作り出す磁場が生じる。この結果、それぞれ原子Iと原子Sには2種類のラーモア周波数を持つものができることになる。

核スピンと電子スピンの間の相互作用には二種類がある。一つは磁気双極子相互作用によるものである。もう一つはフェルミの接触相互作用と呼ばれる機構である。フェルミの接触相互作用の大きさは原子核の位置での電子の存在確率に比例する。原子核の位置で波動関数が0でないのはs軌道だけである。そのため結合電子のs電子性が高い場合、特にプロトンについて重要な機構である。核スピンと電子の軌道角運動量の間にも化学シフトの常磁性項と同じような機構での相互作用が考えられ、スピン結合の原因となる。これはs電子以外の電子で重要な機構である。このモデルから分かるとおり、スピン結合には外部磁場の存在は関係ない。ハミルトニアンに静磁場 B0 が含まれていないのもこのためである。よってスピン結合による分裂幅は静磁場の強度には依存しない。そのため化学シフトとは異なり、スピン結合の値を議論する場合には周波数の観測値をそのまま用いる。

結合定数 J の符号はラーモア周波数の測定からは知ることができないが、緩和現象などを利用して測定がされている。H-NMR においては、ほとんどの場合ジェミナル水素の結合は正、ビシナル水素の結合は負の値を持つことが知られている。

磁気双極子相互作用 は2つの核スピンI,Sが直接磁気双極子として相互作用するものである。磁気双極子相互作用のハミルトニアンは以下のように表される。

H
^
=
μ
0
γ
I
γ
S

2
4
π
r
3
[
I

S

3
r
2
(
I

r
)
(
S

r
)
]
=
I

D

S
\hat{H} = \frac{\mu_0 \gamma_I \gamma_S \hbar^2}{4 \pi r^3} \left[ I \cdot S - \frac{3}{r^2} (I \cdot r)(S \cdot r) \right]= I \cdot D \cdot S
ここでμ0 は真空の透磁率、r はスピンIとSの間を結ぶベクトル、D は磁気双極子相互作用テンソルである。この相互作用の大きさは化学シフトやスピン結合に比べてはるかに大きい。しかし、磁気双極子相互作用テンソルのトレースは0であるので、この相互作用は観測している原子核が充分に速く等方的に運動しているときには平均化されてラーモア周波数への影響は0となる。一方、固体の通常測定においてはその相互作用の大きさからスペクトルの形を支配する。磁気双極子相互作用による共鳴線の分裂幅はベクトルrと静磁場のなす角度θに対して、3cos2θ-1;に比例する。そのため、角度θの平均値を測定の間3cos2θ-1=0と保つようにすれば固体の測定でも磁気双極子相互作用による分裂を消去できる。これがマジックアングルスピニング法 (MAS法) である。

一方、磁気双極子相互作用はほとんどの場合に緩和の機構として主要なものである。

核四極子相互作用 は1以上の核スピン量子数を持つ原子核に存在する相互作用である。

実際の原子核は点ではなく空間的な拡がりを持ち、しかもその電荷の拡がりは常に球対称とは限らない。よって1以上の核スピン量子数を持つ原子核は電気四極子モーメントを持つ。電気四極子モーメントを持つ核が、電場勾配のある環境に置かれている場合、核の向きによってエネルギーが変わるため、エネルギー準位の分裂が起こる。核四極子相互作用とは、原子核を取り巻く電子が作る電場と、球対称ではない原子核との静電相互作用のうち、核の向きによって変化する部分のことである。

NMRと同様に共鳴吸収現象を観測することができ、これは核四極子共鳴 (Nuclear Quadrupole Resonance, NQR) と呼ばれる。

核四極子相互作用のハミルトニアンは以下のように表される。

H
^
=
e
q
2
m
(
2
m

1
)
I

V

I
=
I

Q

I
\hat{H} = \frac{eq}{2m(2m-1)} I \cdot V \cdot I= I \cdot Q \cdot I
ここでe は電気素量、q は核四極子モーメント、V は電場勾配テンソル、Q は核四極子相互作用テンソルである。 核四極子相互作用テンソルのトレースは0であるので、この相互作用は観測している原子核が充分に速く等方的に運動しているときには平均化されてラーモア周波数への影響は0となる。従ってNQRの観測も固体中に限定される。

核四極子相互作用の大きさは、対称性のない物質(=物質内の電場勾配が大きい)では他の相互作用よりも圧倒的に大きい。そのため四極子モーメントを持つ核では、その緩和はほとんど核四極子相互作用に支配される。

xy面内に観測可能なマクロの大きさの磁化ベクトルが生じるのは、核スピンの波動関数がα + βのように複数のスピン状態が混合している形で表され、かつ核スピンの集合全体が同じスピン状態を持っている(個々の核スピンの波動関数がコヒーレントな状態である)場合に限られる。核スピンの波動関数のこのような状態をコヒーレンスという。 コヒーレンスがあることとxy面内に磁化ベクトルが存在することは等価ではない。例えば2つのスピンを含む系において波動関数がαα + ββというような状態でコヒーレントになっている場合、xy面内に磁化ベクトルは存在しない。xy面内に磁化ベクトルが生じるのは全スピン量子数が1だけことなる状態のコヒーレンス(一量子コヒーレンス)のみである。αα + ββのような二量子コヒーレンスやαβ + βαのようなゼロ量子コヒーレンスは磁化ベクトルを生じない。熱平衡状態にあるスピン系に単一の回転磁場パルスを与えると、まず一量子コヒーレンスが生じる。この後、適切なタイミングで適切なパルスを与えることで二量子コヒーレンスやゼロ量子コヒーレンスを生じさせることができる。

一量子コヒーレンス以外のコヒーレンスは直接観測することはできないが、適切なタイミングで適切なパルスを与えることによって一量子コヒーレンスに変換することができ、この一量子コヒーレンスの磁化ベクトルとして間接的に検出することができる。特定の相互作用を持つスピン系のみを観測しようとする測定手法は、特定のコヒーレンスを経由して発生した磁化ベクトルのみを観測するようにしている。このようなコヒーレンスの選別には磁場勾配パルスや位相サイクルといった手法が利用される。

NMRにおける緩和とは電磁波を受けることによって励起された核がエネルギーを放出して基底状態に戻ること、あるいは核スピンのコヒーレンスが消失することである。緩和の原因となるのは周囲の電子や原子核の持つ磁気双極子モーメントや電気四極子モーメントである。これらから受ける磁場が分子のブラウン運動や結合の回転によって変化する。この不規則な磁場の変動の中のエネルギー準位の差に相当する周波数成分によって状態間の遷移が起こり、緩和が起こる。

複数回の積算を行う場合には、緩和にかかる時間に注意が必要である。スピンが熱平衡状態に復帰していない状態で次の積算の測定が行なわれると、測定される磁化の強度が低下する。しかし、十分に緩和するのを待つよりも積算回数を稼ぐ方がS/N比の改善に効果的なこともある。またコヒーレンスが完全に消失していない場合、パルスの干渉が起こってスペクトルにノイズを生じさせる場合もある。

核自身の持つ電気四極子モーメントは緩和を著しく加速させる。スピン1/2の核は電気四極子モーメントを持たず緩和速度が小さいため、測定に長い時間が必要である。一方、緩和する前にさらにスピンを操作することができるため、これらの核に対しては様々な測定法が開発されている。そのため、核スピン1/2の1H, 13C, 15N, 19F, 29Si, 31P といった核がNMRの測定の中心を占めている。逆に核スピン1以上の核は、一部の核を除けば緩和速度が著しく大きいため、時間とエネルギーの間の不確定性原理によりエネルギー準位に幅ができる。すなわちラーモア周波数に幅があるのでシグナルがブロードとなり分解能が低くなる。

縦緩和はスピン-格子緩和とも言い、磁化ベクトルのz成分(縦磁化)が熱平衡状態の値に復帰する緩和である。電磁波を照射することでエネルギーの高い準位に励起されたスピンが格子にエネルギーを放出しながらエネルギーの低い準位に戻る機構で起こる。この過程はランダム磁場の中のx成分やy成分のラーモア周波数と一致する成分を拾って起こる。縦緩和の時定数は T1 で表される。

横緩和はスピン-スピン緩和とも言い、磁化ベクトルのx, y成分(横磁化)が0に復帰する緩和である。この過程には2種類の機構が存在する。1つはスピンの位相がそろった状態から位相がバラバラの状態になる機構である。この過程はランダム磁場のz成分によって各スピンのラーモア周波数が揺らぐことで起こる。もう1つは準位間の遷移によって横磁化が失われる機構である。この過程は縦緩和と同じくランダム磁場の中のx成分やy成分のラーモア周波数と一致する成分を拾って起こる。横緩和の時定数は T2 で表される。 エントロピー的な要請から、T1 ≧ T2 となる。

磁気双極子相互作用を持つ2つのスピンI,Sには2つのスピン量子数を同時に変化させるような緩和過程が存在する。このような過程を交差緩和という。交差緩和が起こるとエネルギー準位の占有数差が熱平衡状態よりも大きくなることがある。これが核オーバーハウザー効果である。

オーバーハウザー効果(オーバーハウザーこうか、英: Overhauser effect)とは、あるスピンの磁気共鳴の遷移を共鳴周波数の電磁波を照射したときに、そのスピンと磁気的な相互作用している別のスピンの磁気共鳴の強度が変化する現象である。発見の経緯から単にオーバーハウザー効果といった場合には、照射される共鳴線が電子スピン共鳴である場合を指し、照射される共鳴線が核磁気共鳴である場合には核オーバーハウザー効果(nuclear Overhauser effect、アクロニムでNOEと称されることが多い)と呼ばれる。

磁気共鳴のシグナル強度は共鳴に関与する2つのエネルギー準位の占有数の差に比例する。オーバーハウザー効果による共鳴のシグナル強度の変化は、共鳴に関与する2つのエネルギー準位の占有数の差が熱平衡状態からずれることによって起こる。このずれは照射とそれに引き続いて起こる2つのスピンの相互作用による緩和によって発生する。

空間的に接近しているスピン角運動量1/2の2つの核A、Bからなるスピン系を考える。この系に静磁場をかけるとゼーマン効果によりエネルギー準位の分裂が起こる。磁気回転比が正の場合、スピンの磁気量子数が+1/2の核の方が-1/2の核よりもエネルギーが低くなるため占有数が増加して熱平衡状態に達する(磁気回転比が負ならば-1/2の準位がより安定になる)。

核Aと核Bの磁気量子数の符号によってゼーマン分裂によって生じた4つの準位をそれぞれ++、+-、-+、--と表すことにする。前の符号が核Aの磁気量子数の符号を、後の符号が核Bの磁気量子数の符号とする。それぞれの準位の占有率はボルツマン分布に従う。この熱平衡状態で核Bの共鳴の強さは、++と+-、-+と--の占有数差に対応するだけの強度となる。

ここで核Aのラーモア周波数と一致する周波数の電磁波を照射する。すると核Aの一部が++から-+、あるいは+-から--へと状態遷移を起こす。充分な照射を行なうと核Aの共鳴シグナルは飽和する。このとき、++と-+、+-と--の対ではそれぞれ占有数が一致している。しかし++と+-、-+と--の占有数差は照射前と変化しないため、核Bのシグナル強度はこの段階では熱平衡状態と変わらない。

核Aの照射により占有数が熱平衡状態からずれたため、緩和が起こる。緩和が核Aと核Bの間の双極子-双極子相互作用によって起こるとすると、そのハミルトニアンには2つの核のスピンを同時に反転させる項が含まれている。そのため緩和では電磁波による遷移と異なり複数のスピンが同時に反転するような遷移(交差緩和)も起こる。

緩和が核Aと核Bの間の双極子-双極子相互作用によって起こる場合、緩和による核Bの単位時間あたりの遷移確率Wは以下の式で表される。

-- ←→ ++(二量子遷移)
W
2
=
γ
A
2
γ
B
2
h
¯
2
r
6

3
5

τ
1
+
(
ω
A
+
ω
B
)
2

τ
{\displaystyle W_{2}={\frac {{\gamma _{A}}^{2}{\gamma _{B}}^{2}{\bar {h}}^{2}}{r^{6}}}\cdot {\frac {3}{5}}\cdot {\frac {\tau }{1+(\omega _{A}+\omega _{B})^{2}\cdot \tau }}}
-- ←→ +-, +- ←→ ++(一量子遷移)
W
1
=
γ
A
2
γ
B
2
h
¯
2
r
6

3
20

τ
1
+
ω
B
2

τ
{\displaystyle W_{1}={\frac {{\gamma _{A}}^{2}{\gamma _{B}}^{2}{\bar {h}}^{2}}{r^{6}}}\cdot {\frac {3}{20}}\cdot {\frac {\tau }{1+\omega _{B}^{2}\cdot \tau }}}
-+ ←→ +-(ゼロ量子遷移)
W
0
=
γ
A
2
γ
B
2
h
¯
2
r
6

1
10

τ
1
+
(
ω
A

ω
B
)
2

τ
{\displaystyle W_{0}={\frac {{\gamma _{A}}^{2}{\gamma _{B}}^{2}{\bar {h}}^{2}}{r^{6}}}\cdot {\frac {1}{10}}\cdot {\frac {\tau }{1+(\omega _{A}-\omega _{B})^{2}\cdot \tau }}}
ここでγはそれぞれの核の磁気回転比、hはディラック定数、rは核間距離、ωはそれぞれの核のラーモア角周波数、τは分子の回転の相関時間である。

分子運動が充分に速くてτが小さくωτ<<1ならば、分母の和の部分が1に近似でき、二量子遷移と一量子遷移とゼロ量子遷移の速度比は12:3:2となる。すなわち二量子遷移の速度が速いために、--から++への緩和が優勢である。逆に分子運動が遅くωτ>>1では、分母の和の部分の1が無視できる。2つの核の磁気回転比が正ならばゼロ量子遷移の速度が最も速く、-+から+-への緩和が優勢である。

最終的に電磁波の照射による核Aの遷移と緩和による占有率の再分配が平衡に達すると、++と+-、-+と--の占有数差はη倍となる。

η
=
γ
A
γ
B

W
2

W
0
W
2
+
2
W
1
+
W
0
{\displaystyle \eta ={\frac {\gamma _{A}}{\gamma _{B}}}\cdot {\frac {W_{2}-W_{0}}{W_{2}+2W_{1}+W_{0}}}}

ωτ<<1ではη = γA/2γBとなる。 2つの核の磁気回転比の符号が同じならば共鳴吸収の増強が、異なるならば吸収の減少あるいは逆に放出が観測される。ωτ<<1では最大で(W0が圧倒的に大きいとき)η = -γA/γBとなる。この場合は2つの核の磁気回転比の符号が異なるならば共鳴吸収の増強が、同じならば吸収の減少あるいは逆に放出が観測される。

ボルツマン分布(ボルツマンぶんぷ、英語: Boltzmann distribution)は、一つのエネルギー準位にある粒子の数(占有数)の分布を与える理論式の一つである。ギブス分布とも呼ばれる。気体分子の速度の分布を与えるマクスウェル分布をより一般化したものに相当する。

量子統計力学においては、占有数の分布がフェルミ分布に従うフェルミ粒子と、ボース分布に従うボース粒子の二種類の粒子に大別できる。ボルツマン分布はこの二種類の粒子の違いが現れないような条件におけるフェルミ分布とボーズ分布の近似形(古典近似)である。ボルツマン分布に従う粒子は古典的粒子とも呼ばれる。

核磁気共鳴および電子スピン共鳴などにおいても、磁場の中で分裂した2つの準位の占有率はボルツマン分布に従う。

ラーモア歳差運動(ラーモアさいさうんどう、英語: Larmor precession)は、物理学において、電子・原子核・原子などの粒子の持つ磁気モーメントが外部磁場によって歳差運動を起こす現象である。ジョゼフ・ラーモアにちなんで名づけられた。

外部磁場は、粒子の磁気モーメント、あるいは角運動量(スピン角運動量や軌道角運動量)にトルクを与え、それは以下のように表される。

Γ

=
μ

×
B

=
γ
J

×
B

\vec{\Gamma} =
\vec{\mu} \times \vec{B}=
\gamma \vec{J} \times \vec{B}
ここで、
Γ

\vec{\Gamma}はトルク、
μ

\vec{\mu}は粒子の磁気モーメント、
B

{\vec {B}}は外部磁場、
J

\vec{J}は粒子の全角運動量
×
\times はクロス積である。

γ
\ \gammaは磁気回転比と呼ばれ、磁気モーメントと全角運動量の比例関係
μ

=
γ
J

\vec{\mu}=\gamma \vec{J}を結びつける定数である。

トルクを受けることで、粒子が持つ磁気モーメントベクトル
μ

\vec{\mu}、あるいは角運動量ベクトル
J

\vec{J}は磁場方向を軸としてその周りを歳差運動する。このとき運動方程式は次式で表される。

d
μ

d
t
=
γ
μ

×
B

,
d
J

d
t
=
γ
J

×
B

\frac{d \vec{\mu}}{dt} =
\gamma\vec{\mu} \times \vec{B},
\, \, \, \, \, \frac{d \vec{J}}{dt}=
\gamma \vec{J} \times \vec{B}
この回転運動の角周波数はラーモア周波数(Larmor frequency)と呼ばれ、以下で表される。

ω

=
γ
B

\vec{\omega} = \gamma \vec{B}
ラーモア歳差運動は核磁気共鳴(NMR)、電子スピン共鳴(EPR)、強磁性共鳴(FMR)などにとって重要である。磁場中ではラーモア周波数を共鳴周波数とも呼ばれる。

レフ・ランダウとエフゲニー・リフシッツによる1935年の有名な論文[1]は、ラーモア歳差運動による強磁性共鳴の存在を予言した。それは1946年にJ. H. E. Griffiths[2]、1947年にE. K. Zavoiskyによる実験で、それぞれ独立に確かめられた。

 

カルコゲン

第16族元素(だいじゅうろくぞくげんそ)は周期表において第16族に属する元素の総称。酸素・硫黄・セレンテルルポロニウムリバモリウムがこれに分類される。酸素族元素、カルコゲンとも呼ばれる。

硫黄 、セレンテルルは性質が似ているのに対し、酸素はいささか性質が異なり、ポロニウム放射性元素で天然における存在量が少ない。この硫黄 、セレンテルル金属元素と化合物を形成し種々の鉱石の主成分となっている。それ故、この三種の元素からなる元素族をギリシャ語で「石を作るもの」という意味のカルコゲンと命名された。また、3種の元素を硫黄族元素と呼ぶ場合もある。その後、周期表が充実されると、第16族をカルコゲンと呼び表す場面が見られるようになった。それ故、性質の異なる酸素はカルコゲンに含めない場合もある。

ハロゲンの左隣の列に位置し、価電子は最外殻のs軌道及び p 軌道にある電子である(s 軌道は 2 電子が占有し、p 軌道は 4 個の電子が占有しており単体モノマーは二価の陰イオンになりやすい)。

第16元素の単体は酸素のみ気体であり、硫黄、セレンテルルポロニウムは固体である。

酸素は大気中に単体として存在するほかにも地殻の主成分であるケイ酸塩を初め化合物として広く大量に存在する(クラーク数)。

また、硫黄の単体が火山噴出物として見出されるほかにも、金属硫化物等が鉱石として濃縮された形で産出される。

セレンテルルは存在量も少なく、金属精錬の副産物として産出される。放射性元素であるポロニウムはごくわずかな量がウラン鉱の副産物中に存在している。

また、第16元素単体はいずれも同素体を有し、特にカートネーション(catenation)[1]性の強い硫黄はシクロ-S6、シクロ-S7、シクロ-S8、シクロ-S9、シクロ-S10、シクロ-S11、シクロ-S12、シクロ-S18、シクロ-S20、そして直鎖状の S∞ などと多様であり、炭素と並んで多数の同素体を持つことが特徴的である(記事 硫黄 に詳しい)。酸素は O2(二酸素、dioxygen)と O3(オゾン)、セレンはシクロ-Se8 と直鎖状の Se∞、テルルはらせん鎖構造 Te∞ とアモルファス構造の Te、そしてポロニウムは単純立方晶の α-Poと菱面体晶の β-Po が同素体として存在する。

これら単体はいずれもハロゲンについで電気陰性度は高く反応性の高い元素群であり、周期が増大するにつれて金属性がいくぶん増大するが、酸素からセレン共有結合物質であり、テルルポロニウムは半金属である。

第16元素は、一般式 H2M であらわされる水素化物を有する。

いずれも原子価殻電子対反発則で示されるように逆V字構造を持ち、非共有電子対間の反発により、周期が増大するほど水素の成す角度は正四面体構造の109度から乖離して小さくなる。

また周期が小さいほど安定で、H2O > H2S > H2Se > H2Te > H2Po の順に安定である。そして水 H2O は水素結合を形成する。

硫化水素セレン化水素、テルル化水素は性質が似ているが、水及び過酸化水素 H2O2 は大きく違う。

また、酸素を除くとカートネーション[1] 性が高いため、ポリスルファン H2Sn (n ≥ 2) などの水素化物も知られている。

硫黄の水素化物の水素は酸性度が高く、プロトンとして電離しやすい。

酸素自身の酸化物として、過酸化物と超酸化物が知られている。

酸素を除く第16元素の酸化物およびオキソ酸は

同じ元素が多数の酸化数状態をとる
カートネーション[1]性が高い
という2つの特徴により多種多様な酸化物が存在する(記事 硫黄 に詳しい)。

硝酸などの常用される酸化剤を使用した場合、硫黄は+6まで酸化されるが、セレンテルルは+4までしか酸化された酸化物しか与えない。

ここでは、カルコゲン元素(硫黄、セレンテルル)のハロゲン化物について詳細に取り上げる。酸素のハロゲン化物については、記事 ハロゲンの酸化物 の項に詳しい。

ハロゲン中でも、フッ素は6価の第16族元素フッ化物を与える点で特徴的であり、他のハロゲン化物では第16族元素の最高酸化数はIV止まりである。

第16族元素のハロゲン化物は、SF6 と SeF6 が非常に安定であるのを例外として、化学的に活性な化合物である。例えば SF4 はフッ素化試剤、S2Cl2 および SCl2 は塩素化試剤やゴムの加硫剤として利用される。

二塩化n硫黄は、硫黄の数に応じて適当な n ≥ 2 の数字を n に代入する。

^ a b c 同種の元素が長く連なって結合すること

原子価殻電子対反発則(げんしかかくでんしついはんぱつそく、valence shell electron pair repulsion rule)は、分子の構造を最も簡単に推定する方法の一つである。電子対反発理論(でんしついはんぱつりろん)やVSEPR理論と呼ばれる場合もある。

この理論は1939年、槌田龍太郎によって提唱され、その後これと独立にナイホルムとガレスピーが発展させた。

原子価殻電子対反発則の基本となるのは「原子価軌道上の電子は相互に反発し、電子対はその反発が最も小さくなるように配置する」という考え方である。(電子は電子軌道に捕捉されているので、電子軌道間に反発があるとみなすことも出来る。)

結合電子対の占有する結合性軌道は2つの原子核の間に強く束縛されているので、非共有結合電子対の原子軌道よりも結合軸近傍に電子雲が集中している。電子の反発はクーロンの法則に従い、同じ距離であれば大きな領域を占有する電子軌道の場合ほど強く反発するので

非共有電子対間の反発 > 非共有電子対と共有結合電子の間の反発 > 共有結合電子間の反発
と考えることができる。

これを補足すると、結合電子対は結合原子間にとらわれているため狭い空間に閉じこめられているが、非結合電子対はより広い空間に広がっているため、非結合電子対同士の空間はより大きくなければいけない。そのため分子の構造を考えるときに、

非共有電子対間の角度 > 非共有電子対と共有結合電子の間の角度 > 共有結合電子間の角度
となる。

メタン、アンモニア、水の分子を考えると、共有結合軌道と非共有電子対軌道の数はそれぞれ(4:0)、(3:1)、(2:2)であり、非共有電子対軌道の反発の結果、共有結合の結合角は小さくなると考えられ、実際には109度、108度、104.5度である。

原子価殻電子対反発則は、オクテット則に従う典型元素後半の元素群だけでなく、ホウ素など電子対欠損を有する場合においても推定が可能であることから広く用いられている。非常に単純明快な定性的理論であるにもかかわらず、希ガス分子を含む多くの化合物の幾何構造を正しく予測することができる。ただし正確な距離や角度などの分子構造を定量することは出来ない。

セレン, Se, 34
分類 半金属
族, 周期, ブロック 16, 4, p
原子量 78.96 
電子配置 [Ar] 4s2 3d10 4p4
電子殻 2, 8, 18, 6(画像)
物理特性
相 固体
密度(室温付近) (灰色セレン)4.81 g/cm3
密度(室温付近) (αセレン)4.39 g/cm3
密度(室温付近) (ガラス状セレン)4.28 g/cm3
融点での液体密度 3.99 g/cm3
融点 494 K, 221 °C, 430 °F
沸点 958 K, 685 °C, 1265 °F
臨界点 1766 K, 27.2 MPa
融解熱 (灰色セレン)6.69 kJ/mol
蒸発熱 95.48 kJ/mol
熱容量 (25 °C) 25.363 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 500 552 617 704 813 958
原子特性
酸化数 6, 4, 2, 1[1], -2(強酸性酸化物)
電気陰性度 2.55(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 941.0 kJ/mol
第2: 2045 kJ/mol
第3: 2973.7 kJ/mol
原子半径 120 pm
共有結合半径 120±4 pm
ファンデルワールス半径 190 pm
その他
結晶構造 六方晶系

その他
結晶構造 六方晶系
磁性 反磁性[2]
熱伝導率 (300 K) (無定形セレン)0.519 W/(m·K)
熱膨張率 (25 °C) (無定形セレン)37 µm/(m·K)
音の伝わる速さ
(微細ロッド) (20 °C) 3350 m/s
ヤング率 10 GPa
剛性率 3.7 GPa
体積弾性率 8.3 GPa
ポアソン比 0.33
モース硬度 2.0
ブリネル硬度 736 MPa
CAS登録番号 7782-49-2
安定同位体
詳細はセレン同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
72Se syn 8.4 d ε - 72As
γ 0.046 -
74Se 0.87% 中性子40個で安定
75Se syn 119.779 d ε - 75As
γ 0.264, 0.136, 0.279 -
76Se 9.36% 中性子42個で安定
77Se 7.63% 中性子43個で安定
78Se 23.78% 中性子44個で安定
79Se trace 3.27×105 y β- 0.151 79Br
80Se 49.61% 中性子46個で安定
82Se 8.73% 1.08×1020 y β-β- 2.995 82Kr

いくつかの同素体が存在するが、常温で安定なのは六方晶系で鎖状構造をもつ灰色セレン(金属セレン)である。灰色セレンの融点は217.4 °C(異なる実験値あり)で、比重は4.8である。他の同素体として、赤色で単斜晶系のα, β, γセレン、ガラス状の無定形セレンなどがある。-2, 0, +2, +4, +6価の酸化状態を取り得る。水に不溶だが、二硫化炭素 (CS2) には溶ける。また、熱濃硫酸と反応する。燃やすと不快臭のある気体(二酸化セレン)が発生する。硫黄に性質が似ている。

セレンは自然界に広く存在し、微量レベルであれば人体にとって必須元素であり、抗酸化作用(抗酸化酵素の合成に必要)があるが、必要レベルの倍程度以上で毒性があり摂取し過ぎると危険であり、水質汚濁、土壌汚染に係る環境基準指定項目となっている。これはセレンの性質が硫黄にきわめてよく似るため、高濃度のセレン中では含硫化合物中の硫黄原子が無作為にセレンに置換され、その機能を阻害されるためである。

克山(クーシャン)病(Keshan disease:中国の風土病)やカシンベック病 (Kashin-Beck disease) の原因としてセレン欠乏が考えられている。

金属セレンは、半導体性、光伝導性がある。これを利用してコピー機の感光ドラムに用いられる。またセレンは整流器(セレン整流器)に使われたり、光起電効果によりカメラの露出計やガラスの着色剤[4]、脱色剤に使われる。毒性がある為、現在は使用が制限され多くの用途において代替物質が使用されている。

1817年、スウェーデンの化学者イェンス・ベルセリウス (Jöns Jakob Berzelius) によって発見された。

セレンギリシャ神話の月の女神セレネから命名されている。これは、周期表上でひとつ下に位置するテルルラテン語で地球を意味する Tellus から命名)より後に発見され、性質がよく似ていたためである。あるいは地球の「上」に位置するためとも言われる。

セレンのように、周期表上で並ぶ元素が天体の配置になぞらえて命名された例は、ウランネプツニウムプルトニウムにも見られる。

1873年にウィルビー・スミス(Willoughby Smith)らがセレンにおいて光導電現象を確認し[5]、1876年にアダムス(Adams)とデイ(Day)らがセレンと金属との接合面における光起電力効果を確認した[6]。 1880年にアレクサンダー・グラハム・ベルセレンの感光特性を光線電話に使用した。 1883年、フリット(C.E.Fritts)がセレンに薄い金の膜を接合した、セレン光起電力セル(Photovoltaic Cell)を作製した[7][6]。このセルは現在で言うショットキー接合を使ったもので[8]、変換効率はわずか1%程度であった[7](現在の太陽電池はpn接合を用いる)。この発明は1960年代まで光センサーとして、カメラの露出計等に広く応用された[6][9]。

セレンはセレノシステインとしてタンパク質に組み込まれ、主にセレノプロテインとして働く。セレンビタミンEやビタミンCと協調して、活性酸素やラジカルから生体を防御すると考えられている。

セレノプロテインには抗酸化に関与するグルタチオンペルオキシダーゼ、チオレドキシン還元酵素甲状腺ホルモンを活性化するテトラヨードチロニン-5'-脱ヨウ素酵素セレンを末梢組織に輸送するセレノプロテインPなどがある。

セレンは欠乏量と中毒量の間の適正量の幅が非常に狭い。セレン過剰症として、悪心、吐き気、下痢、食欲不振、頭痛、免疫抑制、高比重リポ蛋白 (HDL) 減少などの症状がある。一方、欠乏症は貧血、高血圧、精子減少、ガン(特に前立腺ガン)、関節炎、早老、筋萎縮、多発性硬化症などが知られている。ただし、ヒトにおいて、セレン単独の欠乏では、これらの症状が認知されていない(動物実験レベルではセレン単独の欠乏症状が認められている)。

セレンは肉や植物など日常で摂取する食材に含まれており、欠乏症はさほど多くはないが、食品、特に植物性のものに含まれるセレン含量は生育する土壌中のセレン含量に左右される。そのため、セレン含量の乏しい土地の住人にセレン欠乏が見られる。そのような土地として中国黒竜江省の克山県があり、鬱血性心不全を特徴とする克山病が知られている。患者にセレンを補給することにより改善するため、セレンが深く関与すると考えられている。また、中国河南省の林県もセレン含量の低い土壌で、この土地では胃癌の発生頻度が高いことが知られているが、こちらにはニトロソ化合物が影響しているという説もある。

また、血液中のセレン濃度と前立腺ガンの相関性が指摘されており、血液中セレン濃度の低下は前立腺ガンのリスクファクターと言われる。セレンの補充は前立腺ガンのリスクを軽減するとの報告もある。ただし、取り過ぎは前立腺ガンのリスクを軽減しないどころか、皮膚がんのリスクを高めると言われる。

前述のように、ヒトではセレン単独の欠乏症状が見られない。したがって、セレン欠乏は、欠乏症の二次的な要因となると考えられている。すなわち、ビタミンEなどと協調してはたらくため、両栄養素の欠乏症状の相乗作用により現れると考えられる。また、克山病ではセレン欠乏が、コクサッキーウイルスの変異を促し、病原性の獲得および増大をもたらすと考えられている。

人体には体重1 kgあたり、約0.17 mg程度含まれると言われ、1975年にヒトでの必須性が認められた。セレンの食事摂取基準は2005年版の日本人の食事摂取基準[10]によると、推定平均必要量が25 (20) µg、推奨量が30 (25) µg、上限量が450 (350) µgである(数値は成人男性、かっこ内は成人女性)。ただし、30〜49歳の男性の推定平均必要量が30 µg、推奨量が35 µgとなっている。日本人の平均的なセレンの摂取量は100 µg/日とされ、中毒を起こす摂取量は800 µg以上とされている。

東京都は、日本人の摂取量は推奨量をすでに超えている為、「通常はサプリメントとして摂取する必要は無いと考えられる」。更に、「一日許摂取量が上限量に近い栄養補助食品が存在し、上限量を超える可能性がある、この様な物は栄養補助食品として販売されることが問題である」としている[11]。

過剰摂取は健康に影響を及ぼし、次の症状を引き起こすことがある。

皮膚炎や脱毛、爪の変形、爪の脱落、顔面蒼白、末梢神経障害、舌苔、鬱状態、胃腸障害、呼気のニンニク臭、運動失調、呼吸困難、神経症状、下痢、胃腸障害、疲労感、焦燥感、心筋梗塞、腎不全など[12][13]。実際に過剰な含有量のダイエット食品を摂食し、健康被害を生じた例がある。

ヒ素(砒素、ヒそ、英: arsenic、羅: arsenicum)は、原子番号33の元素。元素記号は As。第15族元素(窒素族元素)の一つ。

最も安定で金属光沢があるため金属ヒ素とも呼ばれる「灰色ヒ素」、ニンニク臭があり透明なロウ状の柔らかい「黄色ヒ素」、黒リンと同じ構造を持つ「黒色ヒ素」の3つの同素体が存在する。灰色ヒ素は1気圧下において615 °Cで昇華する。

ファンデルワールス半径や電気陰性度等さまざまな点でリンに似た物理化学的性質を示し、それが生物への毒性の由来になっている。

生物に対する毒性が強いことを利用して、農薬、木材防腐に使用される。

III-V族半導体であるヒ化ガリウム (GaAs) は、発光ダイオードや通信用の高速トランジスタなどに用いられている。

ヒ素化合物であるサルバルサンは、抗生物質ペニシリンが発見される以前は梅毒の治療薬であった。

中国医学では、硫化ヒ素である雄黄や雌黄はしばしば解毒剤、抗炎症剤として製剤に配合される。

ほとんどの生物にとっては有毒だが、ヒ素を必須元素とする生物も存在する。微生物のなかに一般的な酸素ではなく、ヒ素酸化還元反応を利用して光合成を行っているものも存在する[5]。2010年には、GFAJ-1という細菌が、生体内で使われる核酸等のリンの代わりにヒ素を用いているという発表があった[6]が、2012年のサイエンス誌上での報告によって主張は完全に否定されている[7][8][9][10]。

IARC発がん性リスク一覧で、ヒ素およびヒ素化合物は最もリスクが高い「グループ1」に分類されている。

2004年には英国食品規格庁がヒジキに無機ヒ素が多く含まれるため食用にしないよう英国民に勧告した。これに対し、日本の厚生労働省はヒジキに含まれるヒ素は極めて微量であるため、一般的な範囲では食用にしても問題はないという見解を出している[13]。

日本の疫学調査では、食物から摂取されるヒ素は、喫煙男性の肺がんのリスクを高めたが、それ以外の人の肺がんリスクは高めなかった。調査対象者についての総ヒ素の平均摂取量は170μg/日と推計され、日本人の総ヒ素平均摂取量の178μg/日とほぼ同じであった[14]。

スウェーデン食品局は2015年に6歳未満の乳幼児にコメやコメ製品を与えないように勧告しており、大人でも「毎日食べるべきではない」としている[15]。

国立医薬品食品衛生研究所安全情報部第三室長である畝山智香子の『「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える』によると、1日3食、毎日コメを食べた場合のがんリスクを、放射能による影響と比較して「20ミリシーベルトの被曝と同じぐらい」としている[15]。

フッ化水素(フッかすいそ、弗化水素、hydrogen fluoride)とは、水素とフッ素とからなる無機化合物で、分子式が HF と表される無色の気体または液体。水溶液はフッ化水素酸 (hydrofluoric acid) と呼ばれ、フッ酸とも俗称される。毒物及び劇物取締法の医薬用外毒物に指定されている。

ヒトの経口最小致死量 = 1.5 g、または 20 mg/kg(体重あたり)。スプーン一杯の誤飲(9%溶液)で死亡の事例もある[6]。吸引すると、灼熱感、咳、めまい、頭痛、息苦しさ、吐き気、息切れ、咽頭痛、嘔吐などの症状が現われる。また、目に入った場合は発赤、痛み、重度の熱傷を起こす。皮膚に接触すると、体内に容易に浸透する。フッ化水素は体内のカルシウムイオンと結合してフッ化カルシウムを生じさせる反応を起こすので、骨を侵す。濃度の薄いフッ化水素酸が付着すると、数時間後にうずくような痛みに襲われるが、これは生じたフッ化カルシウム結晶の刺激によるものである。また、浴びた量が多いと死に至る。これは血液中のカルシウムイオンがフッ化水素によって急速に消費されるために、血中カルシウム濃度が低下し、しばしば重篤な低カルシウム血症を引き起こすためである[7]。この場合、意識は明晰なまま、心室細動を起こし死亡する[8]。

なお、歯科治療においては、人工歯(義歯)の製造工程にフッ化水素が使われる一方で、歯のう蝕(=虫歯)予防にフッ化ナトリウム (NaF) が使われることがある。実際に、両者のとり違いによる死亡事故(八王子市歯科医師フッ化水素酸誤塗布事故)が報告されている[9][10](両方ともフッ化物なので混同の危険性がある)。皮膚に接触した場合の応急処置としては、直ちに流水洗浄し、グルコン酸カルシウムを患部に塗布する。

モノフルオロ酢酸(モノフルオロさくさん)は化学式C2H3FO2の化学物質で、カルボン酸の一種である。フルオロ酢酸(fluoroacetic acid)、gifblaar poison とも呼ばれる。

酢酸のメチル基を構成する水素の1つが、フッ素原子に置き換わったものである。

日本では毒物及び劇物取締法(毒劇法)により、特定毒物に指定される物質である。

フッ素の原子半径は小さいため、モノフルオロ酢酸は酢酸と間違えられて好気性代謝(酸素呼吸)の経路に取り込まれる。やがてフルオロクエン酸へと変換を受け、これが細胞の主たるエネルギー生産手段であるクエン酸回路を阻害、結果としてその生物を死に至らしめる[1]。

この毒性は、上記代謝に依存する生物であれば動物、植物を問わない。

モノフルオロ酢酸ナトリウム(別名:1080)が殺鼠剤に、モノフルオロ酢酸アミドが殺虫剤に使われる。

いずれもモノフルオロ酢酸の単体と同様、上記の法律で特定毒物に指定されている。

南半球を中心に、モノフルオロ酢酸塩(カリウム塩)を含む有毒植物が産する。別名の由来となった gifblaar (カイナンボク科、学名:Dichapetalum cymosum) は、南アフリカ等のアフリカ南部産の有毒植物である。この植物の周囲の土壌には上述の物質が含まれるため、他の植物は全く生育できず、土が剥き出しになるほどである。有機フッ素化合物が天然に存在する数少ない例の一つである。